2010年代海外本格ミステリ ベスト作品決定(2021.5)

 2021年5月16日(日)、本格ミステリ作家クラブ設立20周年企画として、Zoom会議で「2010年代海外本格ミステリ ベスト作品」の選考を行い、『メインテーマは殺人』(アンソニー・ホロヴィッツ・著、山田蘭・訳、創元推理文庫)を最優秀作に決定しました(選考委員:阿津川辰海、川出正樹、松浦正人、三津田信三、横井司)。
 選考座談会は「ジャーロ No.77」に掲載。

海外優秀本格ミステリ顕彰(2010.6)

 本格ミステリ作家クラブは、設立10周年を記念事業として、クラブ設立の2000年から昨年2009年の10年間に翻訳されたミステリの中から最優秀作を決めることにした。 選考は、最優秀作が会員の投票ではなく、選考委員によって決められるところは異なるが、基本的に本格ミステリ大賞に準じて行った。昨年末に、会員から最優秀作に相応しい作品を募集するアンケートを実施、このアンケートでは同時に選考委員の推薦、立候補も募った。選考委員の立候補、推薦のあった会員に諾否を確認したところ、川出正樹氏、戸川安宣氏、法月綸太郎氏、横井司氏から快諾をいただいたので、四氏に選考委員をお願いした。
 
 選考委員には、選考会での議論を円滑に行うため、アンケート結果をもとに、事前に推薦したい作品を挙げてもらい、アンケート結果と選考委員の推薦作をもとに議論をすることになった。選考委員が推薦した作品は、『ウォッチメイカー』『オックスフォード連続殺人』『女占い師はなぜ死んでゆく』『暗く聖なる夜』『黒衣のダリア』『サム・ホーソーンの事件簿』『証拠は眠る』『ジャンピング・ジェニイ』『ストップ・プレス』『騙し絵の檻』『デス・コレクターズ』『ドン・イシドロ・パロディ』『蛇の形』『魔術師』『夜の記憶』『ルルージュ事件』『わが心臓の痛み』(作品名50音順。選考委員はアンケートに挙がっていない作品も推薦できるので、アンケートには入っていない作品も含まれています)の17作品。
 
 2010年4月11日に開催された選考会では、まず17作品から最終候補作5作を絞る作業を行ったが、長い議論を行った結果6作品が残ってしまったので、『ウォッチメイカー』『女占い師はなぜ死んでゆく』『デス・コレクターズ』『蛇の形』『夜の記憶』『わが心臓の痛み』を最終候補作とした。ここからさらに議論を進め、
 
   ジャック・カーリイ・著
 
   三角和代・訳
 
   『デス・コレクターズ』(文春文庫)

 
 を最優秀作とすることが、全会一致で決まった。
 
  ジャック・カーリイ氏の公式サイトに、受賞のコメントが日本語で掲載されている。
 
 6月19日に行われた「第10回本格ミステリ大賞」贈呈式において、『デス・コレクターズ』の著者ジャック・カーリィ氏の代理、文藝春秋翻訳出版部の永嶋俊一郎氏、訳者三角和代氏に賞状、花束が渡された。
 
・三角和代氏の受賞コメント
 ありがとうございました。10年間で一番面白い本格海外ミステリを『デス・コレクターズ』が受賞したと聞いたときの驚き。しかも本格ミステリ作家クラブさんよりいただいたということで、本当にありがたいことだと思いました。コナリー、ディーバー、クックという候補作がある中で、カーリーが選ばれたということで、皆さんびっくりされたと思いますが、私もびっくりしました。 「デス・コレクターズ」を訳している間、緻密な伏線が張ってある作品で、なんて面白い作品だろうと思いながら訳しましたので、この度の受賞はありがたく思っております。先日、メキシコ湾で原油の流出騒ぎが起きておりますが、『デス・コレクターズ』の舞台となっているのは、アラバマ州モービル、メキシコ湾に面した場所です。そのニュースを聞いたとき、一番最初に思ったのは、主人公カーソンたちは大丈夫だろうかと、本気で思ってしまいました。世界のニュースを見て、身近に感じさせてくれる海外ミステリが、今後も日本で幅広く読まれるようになればいいなと思っております。この賞がきっかけになれば、本当にありがたいと思っております。本当にありがとうございました。
 

海外優秀作顕彰アンケート結果一覧(タイトル50音順)

暗黒大陸の悪霊(文藝春秋)マイケル・スレイド
石の猿(文藝春秋)ジェフリー・ディーヴァー
イデアの洞窟(文藝春秋)ホセ・カルロス・ソモサ
荊の城(東京創元社)サラ・ウォーターズ
ウォッチメイカー(文藝春秋)ジェフリー・ディーヴァー
ウォリス家の殺人(東京創元社)D・M・ディヴァイン
歌うダイアモンド(晶文社)ヘレン・マクロイ
大鴉の啼く冬(東京創元社)アン・クリーヴス
オックスフォード連続殺人(扶桑社)ギジェルモ・マルティネス
カーテンの陰の死(早川書房)ポール・アルテ
学寮祭の夜(東京創元社)ドロシー・L・セイヤーズ
奇術師の密室(扶桑社)リチャード・マシスン
狂人の部屋(早川書房)ポール・アルテ
霧と雪(原書房)マイケル・イネス
クリスマスのフロスト(東京創元社)R・D・ウィングフィールド
虚空から現われた死(原書房)クレイトン・ロースン
国会議事堂の死体(国書刊行会)スタンリー・ハイランド
壊れた偶像(論創社)ジョン・ブラックバーン
最後の審判の巨匠(晶文社)レオ・ペルッツ
最上階の殺人(新樹社)アントニイ・バークリー
サイモン・アークの事件簿(東京創元社)エドワード・D・ホック
サム・ホーソーンの事件簿(東京創元社)エドワード・D・ホック
死せる案山子の冒険(論創社)エラリー・クイーン
死者を起こせ(東京創元社)フレッド・ヴァルガス
死体のない事件(新樹社)レオ・ブルース
死のオブジェ(東京創元社)キャロル・オコンネル
死の相続(原書房)セオドア・ロスコー
証拠は眠る(原書房)オースティン・フリーマン
ジャンピング・ジェニイ(国書刊行会)アントニイ・バークリー
ジョン・ディクスン・カーを読んだ男(論創社)ウィリアム・ブリテン
ストップ・プレス(国書刊行会)マイクル・イネス
世界名探偵倶楽部(早川書房)パブロ・デ・サンティス
ソウル・コレクター(文藝春秋)ジェフリー・ディーヴァー
第三の銃弾 完全版(早川書房)カーター・ディクスン
第四の扉(早川書房)ポール・アルテ
騙し絵の檻(東京創元社)ジル・マゴーン
タラント氏の事件簿(新樹社)C・デイリー・キング
テンプラー家の惨劇(国書刊行会)ハリントン・ヘクスト
道化の町(河出書房新社)ジェィムズ・パウエル
ドン・イシドロ・パロディ 六つの難事件(岩波書店)ボルヘス&ビオイ=カサーレス
七番目の仮説(早川書房)ポール・アルテ
灰色の女(論創社)ウィリアムスン
白鳥の歌(国書刊行会)エドマンド・クリスピン
半身(文藝春秋)サラ・ウォーターズ
ファイロ・ヴァンスの犯罪事件簿(論創社)ヴァン・ダイン
蛇の形(東京創元社)ミネット・ウォルターズ
ポジオリ教授の冒険(河出書房新社)T・S・ストリブリングス
密室殺人コレクション(原書房)二階堂黎人・森英俊編
ミレニアム1~3(早川書房)スティーグ・ラーソン
四人の申し分なき重罪人(国書刊行会)G・K・チェスタトン
夜の記憶(文藝春秋)トマス・H・クック
夜の来訪者(岩波書店)プリーストリー
リヴァイアサン号殺人事件(岩波書店)ボリス・アクーニン
ルルージュ事件(国書刊行会)ガボリオ
レイトン・コートの謎(国書刊行会)アントニー・バークリー

トップページ挨拶

2017.08.01~2022.07.21
本格ミステリの魅力とは、トリックの面白さだったり名探偵の活躍だったり論理の美しさだったり結末の意外性だったり、その全部だったり、そのどれでもない何かだったり――そういうものだと思ったりします。

東川篤哉

2013.07.10~2017.07.31
魅力的な謎とは、謎を謎たらしめる「たくらみ」の魅力でもあります。
論理のフィルターによってこの「たくらみ」を漉(す)き取り、あらためて物語に送り返してやること――それが本格ミステリならではの妙味です。

法月綸太郎

2009.08.01~2013.07.09
堅固に構築された謎を解きほぐし、どろりと零れる人間味を賞したい。上質なステーキのレアに似て、贅沢なミステリが好きなのです。

辻真先

2005.06.12~2009.07.31
魅力的な謎が魅力的に解かれるのを見る時の心のときめきーーそれこそが本格ミステリの醍醐味です。

北村薫

 

2003.02.01~2005.06.11
当クラブは本格ミステリのジャンル的発展をめざし、本格ミステリ大賞の創設のために発足しました。
このホームページに本格ミステリの歴史を刻んでいきたい、と考えています。

有栖川有栖

「本格ミステリ作家クラブ」設立宣言

 江戸川乱歩や横溝正史の尽力で日本に移植された本格ミステリは、第二次大戦後の時代に大きく飛躍した。さらに一九八七年の綾辻行人のデビュー以降、未曾有のジャンル的繁栄をとげつつあることは周知の通りである。だがこのムーヴメントを支えてきた作家の多くは、広範な支持を受けたことに甘んじることなく、さらなるジャンルの発展を望んでいる。
 そのための第一歩として今、本格ミステリ大賞を創設し、年間の最優秀作品を表彰することにした。文学賞が乱立する中においても、本格ミステリとしての評価を第一義とした賞の制定には大きな意味があると信じる。そしてこの賞を運営するために、多くの助力、賛同を得て、我々は結集した。
 我々はここに、本格ミステリ作家クラブの設立を宣言する。
 

 二〇〇〇年十一月三日
 本格ミステリ作家クラブ会員一同

本格ミステリ作家クラブ(準備会)設立に寄せて

さらなるジャンル的発展を目指した船出に祝福の風を
                  有栖川有栖

 

 欧米の古今のミステリ事情に詳しい森英俊氏とご一緒した折、かねてより疑問に思っていたことを尋ねてみた。
「近年、イギリスでも本格ミステリが人気だそうですけれど、あちらでは本格もののことを何と呼ぶんですか?」
 パズラーという言葉を知っていたが、私はそれを日本人以外が使うのを読んだり聞いたりした記憶がない。この素朴な質問に、森氏は即座に答えてくださった。
「イギリスでは、クラシカル・フーダニットと言っています」
 なるほど、と思った。古典的犯人探しでは本格ミステリの一部しか指していないようではあるにせよ、日本で定着している本格という抽象的な呼称よりはイメージがはっきりしている。しかし、クラシカル・フーダニットの中身は、本格ミステリと完全に合致しているのでもあるまい。はたしてどこまで同じで、どこから差異が生じるのだろうか?
 いや、その前に。そもそも日本で言う本格ミステリとはどういう小説のことを指しているのか? その答えは、ミステリファンの数だけ存在するはずだ。名探偵と名犯人の知的闘争を描いた謎解きの物語であるとか、犯罪が論理的に解明されるプロセスを愉しむ物語であるとか、何らかの形のトリックが仕掛けられた物語であるとか。本格ミステリの雰囲気を持った小説が本格ミステリである、という同語反復的な見方さえありそうで、万人が納得する定義づけは難しい。
 それでも確かなのは――本格ミステリがある、ということ。「本格ものは古いタイプの小説で、それに拘ることはミステリの可能性に背を向けることだ」とか「本格は煮詰まりきっていて、そこには未来がない」と否定的な論を唱える声は幾度も耳にしたけれど、本格ミステリの存在を打ち消せた者はいない。
 現代のわが国のミステリ・シーンは非常な活況を呈し、様々なタイプの作品が百花繚乱である。存亡の危機に立っているかのごとく見られた時期がある本格ものも復活を遂げ、オールドファンの渇を癒すだけでなく、新しい読者を多数獲得することに成功した。セールス面のみならず、広義のミステリ作品が文学賞を受賞することも珍しいことではなくなり、ミステリに対する読者の注目度はかつてないほど高くなっていると言えよう。
 これを好天・順風ととらえ、私たちは本格ミステリ作家クラブ(準備会)を発足させ、船出することにした。作家が孤独を紛らわすためにより狭く群れるのではない。本格ミステリと呼ぶべき小説の、さらなるジャンル的発展を目指した結集である。具体的な目的は、本格ミステリ大賞(仮称)を創設し、年間の最優秀作品を表彰すること。既存の文学賞が乱立する中においても、本格ミステリとしての評価を第一義にした賞の制定には大きな意味があると信じる。ここに本格ミステリと呼ぶべきものがあるのだから。そして、私たちは、そのような賞を設置・運営することによって、本格ミステリ全体のクオリティが向上を果たし、その作品がより広範な読者と出会えるようになることを期待する。
 幸いにも、十七人の発起人の呼びかけに望外に多くの方々が参加の意思を表明してくださり、別掲のとおり錚々たる顔ぶれが揃った。機は熟していたのだ。もちろん、現時点で準備会が声をかけられずにいる方もいるし、これから本格ミステリの筆を執る未知の書き手の名は名簿にない。まだ、始まりが始まろうとしているところだ。だから、私たちは本格ミステリの現在・過去・未来を探す旅をともにする仲間のより多くの参加を希いつつ、錨を上げて港を出ることにする。
 本格ミステリを愛するすべての方へ。どうかこの船の終わりのない航海を見守っていていただきたい。そして、祝福と恵みの風を送られんことを。

《参考》
本格ミステリ作家クラブ、設立時の発起人
•我孫子武丸
•綾辻行人
•鮎川哲也
•泡坂妻夫
•有栖川有栖
•折原 一
•笠井 潔
•北村 薫
•京極夏彦
•竹本健治
•二階堂黎人
•西澤保彦
•貫井徳郎
•法月綸太郎
•皆川博子
•山口雅也
•山田正紀