2025年度 第25回本格ミステリ大賞
【評論・研究部門】『死体置場で待ち合わせ 新保博久・法月綸太郎 往復書簡』法月綸太郎・新保博久(光文社)


候補作の獲得票数は以下の通り。
全選評は「紙魚の手帖」vol.23に掲載されます。
【小説部門】有効投票数 56票
『彼女が探偵でなければ』逸木裕(KADOKAWA)……17票
『伯爵と三つの棺』潮谷験(講談社)……13票
『ぼくは化け物きみは怪物』白井智之(光文社)……11票
『サロメの断頭台』夕木春央(講談社)……10票
『永劫館超連続殺人事件 魔女はXと死ぬことにした』南海遊(星海社)……5票
【評論・研究部門】有効投票数 22票
『死体置場で待ち合わせ 新保博久・法月綸太郎 往復書簡』法月綸太郎・新保博久(光文社)……9票
『ミステリから見た「二○二○年」』千街晶之(光文社)……5票
『本格ミステリの構造解析 奇想と叙述と推理の迷宮』飯城勇三(南雲堂)……3票
『クリスティを読む! ミステリの女王の名作入門講座』大矢博子(東京創元社)……3票
『日本の犯罪小説』杉江松恋(光文社)……2票
受賞の言葉
逸木裕
何年か前の話ですが、「ガチガチの本格ミステリを書きませんか」というオーダーをいただいたものの、どうしても書けずに諦めてしまったことがありました。館や孤島や見立て殺人、密室にアリバイ崩しに多重解決、叙述トリックにバラバラ死体に特殊設定――読者として本格ミステリを読むのは大好きで、それなりに蓄積もあるはずなのですが、作者として向き合うと全くどう書いてよいのか判らないのです。それ以来、自分は華やかな本格ミステリではなく、人間心理の謎を丁寧に紐解いていくことを目標に、地道にミステリを書いてきた認識があります。
そんな私の作品が、日本の本格ミステリの中心地ともいえる本賞で顕彰していただけるなど、書いた段階では想像すらしておりませんでした。自らの〈本格観〉がいかに狭いものだったかを反省するとともに、光を当ててくださった本格ミステリ作家クラブの皆様に心より御礼を申し上げます。本当にありがとうございました。
法月綸太郎
リアルのコンクラーベと同日に映画『教皇選挙』を観に行ったまさにその日に、本格大賞の投票結果を知ることになろうとは! 二人三脚のパートナーに指名してくださった新保さんはもちろん、連載の場を設けていただいた「ジャーロ」編集部に改めて感謝いたします。出版事情は厳しさを増す一方ですが、私たちが受け取ったミステリ評論という「手紙」を持ち腐れにせず、次の世代へ送り届けていけるよう今後も精進したいと思います。
新保博久
第1回の本賞を頂戴した『日本ミステリー事典』への自分の貢献度は1割程度と踏んでいたが、今回は晴れて5割と威張れそうで嬉しい。あと25年、踏ん張ればソロ受賞が叶うかしら。25年後、〝もう生きてはいまい〟(ハーバート・ブリーン)か、〝まだ死んでいる〟(ロナルド・A・ノックス)だろうが、叶わぬ望みと知りながら、それを励みに精進するだけなら不可能ではない。〝死体置場で待ちぼうけ〟に終わりませんように。