「本格ミステリ作家クラブ通信」第90号
1.第24回「本格ミステリ大賞」候補作決定
【小説部門】候補作(タイトル50音順)
『アミュレット・ホテル』方丈貴恵(光文社)
『エレファントヘッド』白井智之(KADOKAWA)
『可燃物』米澤穂信(文藝春秋)
『地雷グリコ』青崎有吾(KADOKAWA)
『涜神館殺人事件』手代木正太郎(星海社)
【評論・研究部門】候補作(タイトル50音順)
『現代ミステリとは何か二〇一〇年代の探偵作家たち』限界研・編(南雲堂)
『ミステリ映像の最前線原作と映像の交叉光線』千街晶之(書肆侃侃房)
『ミステリ・ライブラリ・インヴェスティゲーション戦後翻訳ミステリ叢書探訪』川出正樹(東京創元社)
『密室ミステリガイド』飯城勇三(星海社)
『妄想アンソロジー式ミステリガイド』探偵小説研究会・編(書肆侃侃房)
第24回本格ミステリ大賞候補作決定のための予選会は2月11日に、大賞運営委員・霧舎巧、鳥飼否宇、福井健太、イクタケマコト(オブザーバー)の立ち会いのもと、予選委員・市川憂人、今村昌弘、宇田川拓也、織守きょうや、嵩平何によってリモート会議の方式で行われた。
▼選考経過
【小説部門】
予選委員が挙げた推薦作は、青崎有吾『地雷グリコ』、大滝瓶太『その謎を解いてはいけない』、白井智之『エレファントヘッド』、柄刀一『或るスペイン岬の謎』、辻堂ゆめ『答えは市役所3階に2020心の相談室』、手代木正太郎『涜神館殺人事件』、中村あき『好きです、死んでください』、西澤保彦『異分子の彼女腕貫探偵オンライン』、東野圭吾『あなたが誰かを殺した』、古野まほろ『ロジカ・ドラマチカ』、方丈貴恵『アミュレット・ホテル』、森川智喜『動くはずのない死体森川智喜短編集』、門前典之『友が消えた夏終わらない探偵物語』、米澤穂信『可燃物』の十四作品だった(著者五十音順)。
このうち、予選委員全員が推した『エレファントヘッド』と、四人の予選委員が推薦し、残る一名も「候補作とすることに問題はない」として『地雷グリコ』の二作品がまず候補作に決まった。『エレファントヘッド』は作者の持ち味が発揮された上に、新たな手法も見られた点、『地雷グリコ』は特殊ゲーム小説を本格ミステリ的な面白さで読ませた点が評価された。
続いて、三人の予選委員が推薦した『可燃物』の検討に移った。先に候補作に決まった『エレファントヘッド』もそうだったが、大賞受賞歴がある作者の作品である点を鑑みても「候補作に足る仕上がりである」という意見が大勢を占めた。しかし、この段階では全員の賛同は得られなかった。また、予選委員二名が推した『あなたが誰かを殺した』も歴代受賞者の作品ではあるが、こちらは『可燃物』とは反対の評価となり、引き続き審議することになった。同じく二名の予選委員が推薦した『涜神館殺人事件』は概ね好評で、票を投じなかった委員からも「候補作にしてもよい」という意見が出たが、投票した委員からは「積極的に推すわけではない」という逆の言葉が出て、こちらもまた残りの作品を検討してから結論を出すことになった。
一票作品について全員が意見を述べたのち、『その謎を解いてはいけない』『異分子の彼女 腕貫探偵オンライン』『ロジカ・ドラマチカ』『動くはずのない死体 森川智喜短編集』『友が消えた夏 終わらない探偵物語』の五作品の推薦が取り下げられ、その票が移動したことで『可燃物』が新たに候補作に決定した。さらに残った作品で多数決をおこない、意見を交わし、最終的に『涜神館殺人事件』『アミュレット・ホテル』が選ばれた。(霧舎巧)
【評論・研究部門】
五名の選考委員が事前挙げた推薦作は、千街晶之『ミステリ映像の最前線 原作と映像の交叉光線』、限界研編『現代ミステリとは何か 二〇一〇年代の探偵作家たち』、川出正樹『ミステリ・ライブラリ・インヴェスティゲーション 戦後翻訳ミステリ叢書探訪』、飯城勇三『密室ミステリガイド』、若林踏『新世代ミステリ作家探訪 旋風編』、渡邉大輔『謎解きはどこにある 現代日本ミステリの思想』、麻田実『舞台の上の殺人現場 「ミステリ×演劇」を見る』、探偵小説研究会編『本格ミステリ・エターナル300』、探偵小説研究会編『妄想アンソロジー式ミステリガイド』の九作だった。
投票先の修正が行われた後、まずは満票の『ミステリ映像の最前線 原作と映像の交叉光線』と『現代ミステリとは何か 二〇一〇年代の探偵作家たち』が候補作に決定。前者は小説を映像化する際の改
変を扱った新しい観点の研究として、後者は“一人の作家から何を読み取るか”のバリエーションを楽しめる密度の高い作家論集として高く評価された。
続いて全作に対する全選考委員のコメントが述べられ、意見が出揃ったところで、三票の『ミステリ・ライブラリ・インヴェスティゲーション』が候補作に選ばれた。本格ミステリが中心の評論ではないが、戦後の翻訳ミステリ叢書に着目した類例のない本であり、資料的価値とブックガイドとしての面白さを持つという認識は全員が一致していた。
残った六作を二作に絞ることになり、改めて票を動かしたうえで、最多票を得た『密室ミステリガイド』が四冊目の候補作となった。基本的にはガイド本だが、トリックをばらすだけのファストミステリではなく、作品解説やコラムには評論的価値があるという声が多く寄せられた。
この時点で票を失っていた『新世代ミステリ作家探訪 旋風編』と『舞台の上の殺人現場 「ミステリ×演劇」を見る』を除く三作を対象に再投票を行い、同数で並んだ『謎解きはどこにある 現代日本ミステリの思想』と『妄想アンソロジー式ミステリガイド』の決選投票の結果、後者が候補作に確定した。評論研究ではなくインデックスがないという指摘も出たが、架空アンソロジーの企画が興味深いという支持が競り勝った格好である。(福井健太)
▼選評
◎市川憂人
「ミステリランキングの単なる後追いにはしたくない」。二年にわたって予選委員を務めさせていただいた私の、小説部門に対する率直な思いがこれでした。推薦者の多い作品も重要ですが、そうでない作品に手を伸ばし、光を当てるのも予選委員の役目ではあるまいか、と。その意味では『答えは市役所3階に』を推し切れなかったのが大変残念でした。とはいえ候補五作の選考も、振り返れば昨年度に劣らずの激論だったように思います。
一方、ランキングなどで大々的に取り上げられにくい評論・研究部門では、一読者として視野が広がる、あるいは様々な作品への窓口となる著作を主に推しました。結果としては、映像、作家論、海外蔵書、そして「ガイド」と銘打ちながら切り口の全く異なる二作という、幅広い候補作が揃ったと感じます。
力不足を感じる場面も多々ありましたが、予選委員として貴重な経験をさせていただきました。多謝。
◎今村 昌弘
今回の小説部門は本格ミステリそのものの純度というより、本格ミステリの要素がありつつ尖った強みを持つ5作品が最後に残ることになりました。投票でどのような結果になるのか予想のつかない顔ぶれになったと思います。個人的にはアンケートの票差を考慮しながら、すべての作品に対等な厳しさで評価するよう努めました。選を外れた作品にも今後を期待する作家や光る個性を持った作品があり、6作品を残せたらと悩みました。個人的には『或るスペイン岬の謎』を推しきれなかったのが残念でした。
評論・研究部門は近年でもレビューとしても評論としても価値の高い作品が揃った、楽しみな年でした。『妄想アンソロジー式ミステリガイド』を残せたのも収穫でした。二年間の予選委員を通し、特徴の違う作品に対して責任をもって比べることの難しさを改めて学びました。
◎宇田川 拓也
『エレファントヘッド』、『地雷グリコ』は順当。当初は票を投じていなかったが、『可燃物』と『アミュレット・ホテル』は選考の過程で推す側に回った。『あなたが誰かを殺した』も推したものの、こちらは「まさか」と思うほど票が得られず無念。『涜神館殺人事件』については、素材にはそそられるも、正直「好感を覚える」程度の評価だったが、最終的に反対はせず。賛同は得られなかったが、もっと評価されてもいい作品として、森川智喜『動くはずのない死体』と門前典之『友が消えた夏』を挙げたことを記しておきたい。
『ミステリ・ライブラリ・インヴェスティゲーション』を一番に推して挑んだ評論・研究部門の結果には、概ね満足。類書がないという点で『舞台の上の殺人現場』も挙げたが、推し切れず。最後はともに高く評価する『謎解きはどこにある』と『妄想アンソロジー式ミステリガイド』の一騎打ちとなり、大いに悩みながら前者を推すも力及ばなかった。
◎織守きょうや
予選委員と一般会員両方の票数の多かった『エレファントヘッド』『地雷グリコ』『可燃物』がまず候補作に決定し、そこからは議論が白熱しました。推薦作だった『涜神館殺人事件』が候補になったのは嬉しいです。『好きです、死んでください』も推薦し、予選委員内で好評価は得られたものの、こちらは推しきれず残念。最終的に全員が高評価だった『アミュレット・ホテル』が最後の枠に入り、秀作揃い、納得のラインナップとなりました。評論部門では、著者たちにすでに同賞の受賞歴があるとはいえ、是非推したいと思い臨んだ『ミステリ映像の最前線 原作と映像の交叉光線』と『密室ミステリガイド』が候補に決まってほっとしました。両部門に共通して、私はどの作品も、単独で、一冊としてしか評価していなかったのですが、「シリーズものとして読むと評価の仕方が変わってくる」場合もあると予選会で知り、勉強になりました。ありがとうございました。
◎嵩平 何
【小説部門】比較的すんなり決まった三作は文句なしとして、推していた『ロジカ・ドラマチカ』は他の方の意見に納得した上で票を動かした。全員が評価する作品と、二三人が積極的に推す作品のどちらを候補にするかは悩ましいが、『答えは市役所3階に』などの優れた作品についても検討できたことは満足している。
【評論・研究部門】私も一部執筆・関係している探偵小説研究会の編著が二冊候補作の選考対象となっていたが、そちらについても積極的に議論に加わった。腑に落ちた結果の小説部門とは異なり、本来ならば違った評価軸で語られるべきものを、同じ土俵で競わざるを得ないことの難しさをひしひしと感じた。最終的に『謎解きはどこにある』が候補から零れ落ちたのは、推薦しなかった者からしても残念だという思いが強い。また入手困難のため挙げなかったが、『和翠の図書館Ⅰ』は歴史的名著となるだけの価値があり、完結の際には大いなる高評を得てほしい。
▼候補作アンケート
36通
*31→33→42→36→35→37→30→30→27→30→27→39→36→34→31→36 Googleフォームを使用したため昨年より微増。
【アンケート結果】(タイトル五十音順)
◎小説部門
『あなたが誰かを殺した』東野圭吾(講談社)
『アミュレット・ホテル』方丈貴恵(光文社)
『或るスペイン岬の謎』柄刀一(光文社)
『異分子の彼女』西澤保彦(実業之日本社)
『ヴァンプドッグは叫ばない』市川憂人(東京創元社)
『動くはずのない死体 森川智喜短編集』森川智喜(光文社)
『エフェクトラ』霞流一(南雲堂)
『エレファントヘッド』白井智之(KADOKAWA)
『大雑把かつあやふやな怪盗の予告状』倉知淳(ポプラ社)
『案山子の村の殺人』楠谷佑(東京創元社)
『化石少女と七つの冒険』麻耶雄嵩(徳間書店)
『可燃物』米澤穂信(文藝春秋)
『ぎんなみ商店街の事件簿』井上真偽(小学館)
『クローズドサスペンスヘブン』五条紀夫(新潮社)
『午後のチャイムが鳴るまでは』阿津川辰海(実業之日本社)
『答えは市役所3階に』辻堂ゆめ(光文社)
『木挽町のあだ討ち』永井紗耶子(新潮社)
『しおかぜ市一家殺人事件あるいは迷宮牢の殺人』早坂吝(光文社)
『栞と嘘の季節』米澤穂信(集英社)
『十戒』夕木春央(講談社)
『地雷グリコ』青崎有吾(KADOKAWA)
『好きです、死んでください』中村あき(双葉社)
『世界でいちばん透きとおった物語』杉井光(新潮社)
『先祖探偵』新川帆立(角川春樹事務所) ※期間外
『その謎を解いてはいけない』大滝瓶太(実業之日本社)
『ちぎれた鎖と光の切れ端』荒木あかね(講談社)
『でぃすぺる』今村昌弘(文藝春秋)
『涜神館殺人事件』手代木正太郎(星海社)
『友が消えた夏 終わらない探偵物語』門前典之(光文社)
『777 トリプルセブン』 伊坂幸太郎(KADOKAWA)
『鵼の碑』京極夏彦(講談社)
『バイバイ、サンタクロース 麻坂家の双子探偵』真門浩平(光文社)
『不死探偵・冷堂紅葉 01.君とのキスは密室で』零雫(GA文庫)
『変な家2 11の間取り図』雨穴(飛鳥新社)
『焔と雪 京都探偵物語』伊吹亜門(早川書房)
『魔女の原罪』五十嵐律人(文藝春秋)
『むかしむかしあるところに、死体があってもめでたしめでたし。』青柳碧人(双葉社)
『龍の墓』貫井徳郎(双葉社)
『ロジカ・ドラマチカ』古野まほろ(光文社)
『をんごく』北沢陶(KADOKAWA)
◎評論・研究部門
『陰謀論的探偵小説論』荒岸来穂(早川書房)※連載中
『現代ミステリとは何か 二〇一〇年代の探偵作家たち』限界研・編(南雲堂)
『十四人の識者が選ぶ 本当に面白いミステリ・ガイド』杉江松恋・監修(Pヴァイン)
『少女小説を知るための100冊』嵯峨景子(星海社)
『新世代ミステリ作家探訪 旋風編』若林踏(光文社)
『謎解きはどこにある 現代日本ミステリの思想』渡邉大輔(南雲堂)
『舞台上の殺人現場 「ミステリ×演劇」を見る』麻田実(鳥影社)
『本格ミステリ・エターナル300』探偵小説研究会・編(行舟文化)
『ミステリ映像の最前線 原作と映像の交叉光線』千街晶之(書肆侃侃房)
『ミステリースクール』講談社・編(講談社)
『ミステリ・ライブラリ・インヴェスティゲーション 戦後翻訳ミステリ叢書探訪』川出正樹(東京創元社)
『密室ミステリガイド』飯城勇三(星海社)
『妄想アンソロジー式ミステリガイド』探偵小説研究会・編(書肆侃侃房)
『和翠の図書館Ⅰ』松井和翠(同人誌)
▼今後のスケジュール
5月07日(火) 投票締切
5月10日(金) 第24回本格ミステリ大賞発表
6月22日(土) 総会&贈呈式 @都内某所
6月23日(日) 受賞記念オンラインインタビュー&サイン会 @銀座教文館(銀座)
※日程は暫定的なものです。
3.新入会員の紹介
◎笛吹太郎[推薦:関根亨/若林踏]
推薦理由:笛吹太郎さんのデビュー連作短編集『コージーボーイズ、あるいは消えた居酒屋の謎』は21年11月刊。同書の表題作は早くも、21年6月刊の『本格王 2021』に収録されています。当時の同アンソロ選考委員三氏(酒井貞道、廣澤吉泰、円居挽)が注目した笛吹氏の今後活躍を期待し、同氏入会を推薦いたします。(関根亨)
自己紹介:1980年東京生まれ。早稲田大学卒。2002年「強風の日」が第9回創元推理短編賞の最終候補となり、翌年『創元推理21 2003年春号』に掲載される。2021年に東京創元社より『コージーボーイズ、あるいは消えた居酒屋の謎』を刊行。好きな本格作品は亜愛一郎三部作をはじめ多数。昨年と同様、開票作業と結果発表は執行会議メンバー、事務局で執り行います。
(2024.03.04発行)
「本格ミステリ作家クラブ通信」第89号
1. 第24期総会・第24回「本格ミステリ大賞」贈呈式までのスケジュール
・12月8日(金) 推薦作アンケートフォームを配布
・1月10日(水) アンケート〆切(郵送の場合は消印有効)
・2月11日(もしくは12日) 候補作選考委員会(オンライン)
予選委員=市川憂人、今村昌弘、宇田川拓也、織守きょうや、嵩平何(五十音順)
大賞運営委員=霧舎巧、鳥飼否宇、福井健太、イクタケマコト
・2月13日候補作家の承諾確認後、候補作発表
・2月下旬候補作の選考経過と本選投票フォームを配布
・5月7日(火) 投票〆切
・5月10日(金) 大賞発表 公式ホームページ
・6月22日(土) 総会・贈呈式パーティ
・6月23日(日) 受賞記念トークショー&サイン会(詳細未定)
2. 大賞推薦作アンケート回答のお願い(会員のみ)
メールに添付した推薦作アンケートフォームへの回答にご協力ください。推薦作は3作まで挙げることができますが、1作のみでもかまいません。新刊の読書量が少ない場合でも、その中でこれは「本格ミステリ大賞」の候補にふさわしいと思う作品がある場合には、積極的に推薦してください。
「本格ミステリ大賞」を選ぶのが当クラブ設立の第一の目的であり、そのためには会員のみなさんが、本選投票に参加することはもちろんですが、候補作を推薦すること(アンケートに回答すること)も同様に望まれています。アンケートは予選委員が候補作を選定する際にその結果を参考にする、重要な位置づけにあります。
また回答の際には以下の点に注意してください(用紙に記載の要件を満たしていないものは、せっかく回答をいただいても無効となってしまいます)。
・回答者本人の名前(会員名)を必ず記してください。
・一会員による複数回答は認められません。
・各部門それぞれ推薦できるのは3作品までです。上限を守ってください。
・〆切日を過ぎた回答は無効、2023 年発行(奥付)以外の作品は対象外です。
※なお、アンケートに「新刊リスト」は同封しません。毎年、対象外の作品を推薦する無効回答が複数寄せられます。大切な一票ですから、送る前にもう一度、2023年発行の作品であることを確認してください。ケアレスミスのない投票をお願いします。
3. 新役員、新執行会議メンバーの立候補および推薦について(会員のみ)
現役員および執行会議メンバーの任期が、今期(2024年6月22日開催予定の本格ミステリ大賞関連行事の当日)で満了となります(任期は2期とする、ただし、再任を妨げない=会則第12 条)。つきましては、2024年1月10日(水)が役員、執行会議メンバーの立候補・推薦の〆切となっております。立候補・推薦をされる方は、専用フォームに記入のうえ大賞アンケートの回答と併せて〆切までにお送りください。
4. 太田忠司事務局長からの報告
6月の本格ミステリ作家クラブ総会で承認されました「本格ミステリ大賞投票の電子化」実施のため、現在作業を進めております。
投票はGoogleフォームを使用し、インターネット上から行うことになります。具体的な方法については、後日会報にてご連絡いたします。
ただ、どうしても電子投票が難しいという方には、郵送での投票が可能になるように配慮いたします。
そういう「郵送での投票を望まれる会員」をリストアップするために往復ハガキをお送りしました。
電子投票が難しい方のみ、返信ハガキに郵送投票を希望する旨をチェックいただいた上でご返信ください。
また、本格ミステリ作家クラブに登録しているメールアドレスに変更があった場合、もしくは事務局からメールが届かない等ございましたら、新しいアドレスをご記入の上ご返送ください。
【お願い】
今後、郵送での投票はイレギュラーな対応となります。ネットに接続可能な方は、電子投票をお願いいたします。
本格ミステリ作家クラブ事務局長 太田忠司
(2023.12.08発行)
「本格ミステリ作家クラブ通信」第88号
1.太田忠司事務局長よりお知らせ
①本格ミステリ大賞投票および候補作アンケートの電子化について
6月の本格ミステリ作家クラブ総会で承認されました本格ミステリ大賞投票の電子化について、現在の状況を報告いたします。
先般お伝えしたとおり、電子投票をGoogleフォームを利用して実施できるように検討しています。現在はプロトタイプを作成し、執行会議メンバー間で意見を交わしています。
それに伴い、会員の皆さんに募っていた本格ミステリ大賞候補作アンケートも同じくGoogleフォームで募ることにしようと検討を進めています。
どちらも、遅くとも年内には形式を固める予定です。
②執行会議メンバーおよび役員選任の電子化について
コロナ禍以降、執行会議はリアルに対面する形式からリモートによる開催に変わりました。これは感染対策という点だけでなく、移動による執行会議メンバーの負担を軽減し、さらに経費の削減ともなりました。
しかしその一方で、リアルに対面する会議では当たり前にできていたことがリモート会議では非常に難しい場合も生じています。
この弊害を解消するため、いくつかの変更を実施したいと考えています。
そのひとつとして、執行会議メンバーおよび役員の選任方法を変更します。
会則13条および内規により、本格ミステリ作家クラブのメンバーおよび役員は立候補または推薦によって選任されています。従来は紙の投票・推薦用紙を使ってきましたが、これもGoogleフォームを使った方式に改めます。
この書式も現在プロトタイプの検討に入っており、年内には形式を決める予定です。
③新入会員の積極的な勧誘と、そのための電子化について
新しい会員を迎え入れることは会の存続に必要不可欠なことです。新しい血を取り込まない組織は衰退するからです。本格ミステリ作家クラブも例外ではありません。
にもかかわらずコロナ禍以降、新人と接触する機会が極めて少なくなり、また積極的に新人を入会に導こうという動きも滞っておりました。
しかしリアルな贈呈式なども開催できたことですし、そろそろ会員勧誘にも本腰を入れていきたいところです。
会則によると「会員になろうとする者は、1名以上の会員および執行会議のメンバーのうち1名以上の推薦を受け、執行会議の議決を経て会員たる資格を得るものとする」とあります。
これに従い、これまでは入会希望者が入会申込書に必要事項(住所、氏名、メールアドレス等と自己紹介文)を記入して事務局に送り、執行会議の場でその場に出席している執行会議メンバー2名が推薦人となって名前と推薦理由を書き、申込書を出席メンバー全員に回覧して承認してもらう形をとっていました。
ところが執行会議をリモートで行うようになると、このやり方ではできなくなります。なので、こちらもGoogleフォームを利用した入会申込書を作ろうとしています。
流れとしては、
1 入会希望者が推薦人から推薦文をもらい、フォームに必要事項と推薦文を記入して申し込む。
2 執行会議の場でメンバーのひとりが推薦人となり、出席メンバーに承認されて入会を認める。
と、いうような形になると思います。
合わせて、入会希望者に向けての本格ミステリ作家クラブの紹介と入会の手続きについての案内を作成し、会員になりたいと思ったひとが簡単アクセスできるようにしたいと考えています。これも現在、まとめている最中です。
会員の皆さんにお願いしたいのは、新しい会員になってくれそうな方への積極的な勧誘です。自らが推薦人となって、会員を増やしていただきたいと思います。
電子化を待たなくていいです。もしも身近にクラブに興味を持っている方、あるいは入会させたい方がいましたら、お声がけしてください。
・入会資格は本格ミステリ作家クラブの趣旨(本格ミステリの普及および発展に寄与することを目的とする)に賛同する作家、評論家、漫画家等であること。
・会員の権利として本格ミステリ大賞を選ぶためアンケートで推薦作を選ぶことができる。そして候補作から大賞となる作品を選ぶための投票権が与えられる。そして贈呈式および祝賀パーティに出席でき、多くの本格ミステリ関係者と交流できる。
・会員の義務として年会費を支払う。そして年に一回、本格ミステリ大賞贈呈式および祝賀パーティと同時に開催される総会に出席するか、委任状により権利を委任する義務を負う。
以上の「資格、権利、義務」を理解していただいた上で、入会したいと申し出てくれる方がいましたら、事務局に入会申込書を申請してください。
以上、よろしくお願いいたします。
2.新入会員の紹介
10月6日に開催しました執行会議にて、お二人の新入会員が承認されました。現在の会員数は199名となります。
□潮谷験(しおたに・けん) [関根亨/坂嶋竜=推薦]
自己紹介:1978 年3月29日生。龍谷大学文学部史学科東洋史学専攻卒業。2020年『スイッチ』で第63回メフィスト賞受賞。翌年受賞作を改題した『スイッチ悪意の実験』でデビュー。好きな本格ミステリー エラリー・クイーン『中途の家』。
推薦理由:潮谷さんはわずか2年で4作品を発表されていますが、特殊設定の先に広がる謎解きは非常に優れており、今後のさらなる活躍が期待されるため、クラブに推薦いたします。(坂嶋竜)
□三島政幸(みしま・まさゆき 筆名・政宗九) [関根亨/大山誠一郎=推薦]
自己紹介:1967 年生まれ。本業・書店勤務。1990 年代より政宗九名義でネット上などで活動する。太田忠司『遺品博物館』(創元推理文庫)、東川篤哉『放課後はミステリーとともに』(実業之日本社文庫)など文庫解説多数。
推薦理由:三島政幸さんは多年にわたり政宗九名義でネットや解説などでミステリの魅力を語るとともに、書店員として店舗でミステリの面白さをアピールするさまざまな取組みをしてこられています。(大山誠一郎)
(2023.10.31発行)
「本格ミステリ作家クラブ通信」第87号
1.第23回本格ミステリ作家クラブ総会の報告
(1)議長団の選出
会則 26 条「総会の議事進行は執行会議がおこなうものとする」の条項に基づき、執行会議のメンバーから以下の議長団を選任した。
議長・芦辺拓 書記・千澤のり子
議長団は拍手多数をもって承認された。また議事進行において特に異議のない場合は、拍手で承認することを確認した。
(2)麻耶雄嵩会長の挨拶
今年は4年ぶりに本格ミステリ大賞の贈呈式とパーティーを開けます。本格ミステリ作家クラブ自体が停滞していた感じがありましたが、ようやく元に戻る一歩が進めました。今年からまた新たに頑張っていきたいと思います。よろしくお願いします。
(3)定足数の確認、入退会者の承認
出席者36名、委任109名で、合計145名となり、正会員数の197名の半数を超えているので定足数を満たし、会則 27 条により総会が成立した。
続いて執行会議が承認した新入会員について議長から簡単な紹介をした後、
・諸橋カムイ(千澤のり子/坂嶋竜=推薦)
以上1名の入会が全会一致で承認された。
また、新保博久氏、逝去により鏑木蓮氏と光原百合氏の退会が報告された。
(4)第22期活動報告 議案書参照
太田忠司事務局長から議案書にもとづき、報告がなされた。
深水黎一郎会計担当から会計報告書にもとづき報告がされ、法月綸太郎監事からの代理で監査報告書を読み上げた。活動報告は規約上承認を受ける必要はないが、慣例として会計報告と合わせて承認された。
(5)本格ミステリ大賞選考方法の見直しについて
議案6の本格ミステリ大賞選考方法の見直しについて、太田忠司事務局長から事務局の現状が伝えられ、負担減のために、これまでの封書式投票から電子投票に移行する提案がなされた。
電子投票の問題点を指摘したのち、方法について検討する旨を述べた。郵送のみを希望する会員は事務局に直接連絡すると述べた。
会員の市川憂人氏からメールのフォームについて質問があり、ネット主体のやり方を提案された。太田忠司事務局長から、電子投票をイメージしていると回答があった。
方針転換については、承認された。
(6)本格ミステリ大賞贈呈式、トークショーの今後について
青柳碧人イベント担当より、6月25日芳林堂開催トークショーとサイン会について説明と注意がなされた。コロナ禍により授賞式がおこなえなかった受賞者はサイン会に参加する旨が伝えられ、人数制限のために見学は差し控えるよう促された。当面は出席者を控えめにしたイベントになると報告があり承認された.
(7)第23期活動計画と予算案について
議案書にもとづき、太田忠司事務局長から活動計画、深水黎一郎会計担当から予算案が読み上げられ承認された。
(8)今後の運営について
今後の運営に関する質疑応答はなく、拍手をもって総会は終了した
2.第23期執行役員メンバー決定
・会長:麻耶雄嵩
・事務局長:太田忠司
・大賞運営委員:霧舎巧、鳥飼否宇、福井健太
・賛助会員担当:廣澤吉泰
・アンソロジー担当:関根亨
・書記:若林踏
・サイト担当:黒田研二
・イベント担当:北村一男、青柳碧人、若林踏
・会計:大山誠一郎
・監査:法月綸太郞
・執行会議:芦辺拓、イクタケマコト、小島正樹、千澤のり子、似鳥鶏、東川篤哉
*第24回本格ミステリ大賞予選委員
・今村昌弘(継続)
・市川憂人(継続)
・宇田川拓也(継続)
・織守きょうや(新任)
・嵩平何(新任)
3.本格ミステリ大賞投票方法変更について 太田事務局長より
執行会議が提案しました「本格ミステリ大賞選考方法の見直し」議案が2023年6月24日の本格ミステリ作家クラブ総会において承認されました。
この件について、あらためて説明いたします。
会報 82 号でお知らせしたとおり、本格ミステリ作家クラブ事務局が創設以来担当していただいていた光文社から東京創元社へと移管されました。
それにともないクラブの健全な運営を目指すため事務局業務の省力化を進めています。
すでに「本格ミステリ作家クラブ通信」のメールの送付、年会費納入の簡略を実施し、会員の皆様にもご協力をいただいております。
今回承認いただいた「本格ミステリ大賞選考方法の見直し」も、その一環です。
従来、本格ミステリ大賞への投票は郵送によるものが主体であり、メールによる投票はあくまでその補完という形でした。しかし投票用紙の送付にも手間がかかり、現状では大きな負担となっています。
今回の見直しでは電子投票を主体とし、ネットでの投票が難しい会員のみ郵送投票する、という形式に変更いたします。
これにより事務局の負担を減らし、持続可能なクラブ運営が可能になると考えています。また電子投票を主体とすることで投票行動のハードルが下がり、投票総数が伸びる可能性も考えられます。
この方向転換により、これまでの大賞決定のプロセスも変わってくることになります。
これまでは開票式の場で初めて投票用紙が開封され、その場で読み上げられて得票するという形にしていました。メール等で送られてきた投票も一度プリントして封印し、郵送投票と同じ扱いにしていました。
ネット主体の投票となれば、そうしたセレモニー的な演出も変更を余儀なくされることとなるでしょう。
今後大賞発表のプロセスをどのようなものにするかについては、会員の皆さんの意見を伺いつつ執行会議で協議していきます。
従来のメール投票にはひとつ、懸念すべき点がありした。
稀に会員からのメールが事務局に届かないというトラブルが発生するのです。今のところ原因は定かではありません。
そのため電子投票においてはGoogleフォームを利用すべく、調査検討をしている段階です。
次回大賞の投票が始まるまでには方式を確立し、アナウンスいたします。
4.第23回本格ミステリ大賞 受賞者のコメント
〔小説部門〕『名探偵のいけにえ 人民教会殺人事件』白井智之
◎白井智之氏のコメント
名探偵が閉鎖空間に閉じ込められ、次々と起こる殺人事件の解明に挑む。そんな本格ミステリのど真ん中にあるような作品が好きです。とはいえ王道ゆえの難しさ、ごまかしの利かなさも想像でき、自分で書くには覚悟がいるとも感じていました。今回、そんな「真ん中」を目指した作品で栄誉ある賞を頂くことができ、大変嬉しく、光栄に思っています。本作を読んで頂いた方、出版に関わってくださった方、そしていつも驚きと興奮を与えてくれる本格ミステリというジャンルに、心からの感謝とお礼を申し上げます。
〔評論・研究部門〕『阿津川辰海 読書日記 かくしてミステリー作家は語る〈新鋭奮闘編〉』阿津川辰海
◎阿津川辰海氏のコメント
毎日のように本を読み、毎日のようにミステリーのことを考えてきた成果に、このように望外の評価をいただけたことを本当にうれしく思います。都筑道夫、法月綸太郎両氏の背中を追いかけつつ、内藤陳『読まずに死ねるか!』、小林信彦『地獄の読書録』のように読み応えのある新刊時評を心がけましたが、文字数制限がないWEB媒体の強みを生かして好き放題やれました。「今日もミステリーが面白い!」とこれからも伝えていきます。
5.芳林堂書店高田馬場「第23回本格ミステリ大賞受賞記念イベント」報告(文責:北村一男)
4年ぶりのリアルトークショーが、芳林堂8階イベントスペースにておこなわれた。
応募280名/抽選100名/参加90名。トークショーのあと1~5組/30分ごとのサイン会(階段待機)。
マスク着用/検温/撮影・プレゼント・握手等禁止。サインは1作家5冊まで/為書き1作家2冊まで。
12:30 ~ 13:15 トークショー(受賞インタビュー)=白井智之/阿津川辰海/青柳碧人(司会)
抽選で3名に「寄書き色紙」プレゼント
13:30 ~ 16:00 サイン会=上記3名+相沢沙呼/有栖川有栖/大崎梢/北村薫/櫻田智也/麻耶雄嵩
昨年の紀伊国屋が100名中参加72名、今回90名は、まだ一部「密」を警戒する雰囲気が残っているのかもしれない。
しかしながら、全体的には申し分のない進行で、16:00予定どおり終了。
参加読者の辛抱強さと、事務局及び多くの編集者のサポートに支えられた。
サイン会には、イベントのできなかった第20回・21回小説部門受賞の相沢沙呼/櫻田智也両氏が参加。
なお、次回第24回は2024年6月某日都内某所にて、オンライントークショー及び5名規模のサイン会を予定している。
設立20周年イベントを見送らざるを得なかったことからも、2025年の25周年記念は、ぜひ盛大なイベントを実現したい。
6.新入会員の紹介
◎諸橋カムイ(もろはし・かむい)氏[千澤のり子/坂島竜=推薦]
推薦者:千澤のり子
諸橋さんは本格ミステリに対する知識と情熱を持っていて、自分の経営するお店で本格ミステリ作家とのコラボメニューも制作しています。劇作家として、本格ミステリのドラマCDや朗読劇の脚本も書いています。
推薦者:坂嶋竜
北海道出身。劇団カムイ主宰。スープカレーカムイ店主。株式会社御手洗カフェ社長(社名は島田荘司先生につけていただきました)。「南雲堂本格ミステリー大賞」2年連続受賞。師匠は六道慧先生。
(2023.08.31発行)
「本格ミステリ作家クラブ通信」第86号
1.第23回「本格ミステリ大賞」候補作決定
【小説部門】候補作(タイトル50音順)
『時計屋探偵の冒険 アリバイ崩し承ります2』大山誠一郎(実業之日本社)
『方舟』夕木春央(講談社)
『名探偵に甘美なる死を』方丈貴恵(東京創元社)
『名探偵のいけにえ 人民教会殺人事件』白井智之(新潮社)
『揺籃の都 平家物語推理抄』羽生飛鳥(東京創元社)
【評論・研究部門】候補作(タイトル50音順)
『阿津川辰海 読書日記 かくしてミステリー作家は語る〈新鋭奮闘編〉』阿津川辰海(光文社)
『怪異猟奇ミステリー全史』風間賢二(新潮選書)
『シャーロック・ホームズの建築』北原尚彦[文]/村山隆司[絵・図](エクスナレッジ)
『松本清張推理評論集1957-1988』松本清張(中央公論新社)
『円居挽のミステリ塾』円居挽ほか(星海社)
第23回「本格ミステリ大賞」候補作決定のための予選会は2月11日に、大賞運営委員・霧舎巧、鳥飼否宇、福井健太の立ち会いのもと、予選委員・市川憂人、今村昌弘、宇田川拓也、大倉崇裕、波多野健によってリモート会議の方式で行われた。
▼選考経過
【小説部門】
予選委員があげた推薦作は、阿津川辰海『録音された誘拐』、有栖川有栖『捜査線上の夕映え』、鵜林伸也『秘境駅のクローズド・サークル』、大島清昭『赤虫村の怪談』、大山誠一郎『記憶の中の誘拐 赤い博物館』、同『時計屋探偵の冒険 アリバイ崩し承ります2』、小川哲『君のクイズ』、紺野天龍『神薙虚無最後の事件』、白井智之『名探偵のいけにえ 人民教会殺人事件』、柄刀一『或るアメリカ銃の謎』、羽生飛鳥『揺籃の都 平家物語推理抄』、古野まほろ『侵略少女 EXIL girls』、方丈貴恵『名探偵に甘美なる死を』、夕木春央『方舟』の十四作品だった(著者五十音順)。
このうち、予選委員全員が推した『名探偵のいけにえ 人民教会殺人事件』がまず候補作に決まった。続いて、四人の予選委員が推薦した『名探偵に甘美なる死を』と、三人が推した『方舟』、『君のクイズ』の検討に移ったが、いずれも全委員の同意を得るには至らず、候補作とするか否か保留のまま、残り十作品も含めて意見を述べ合うことになった。その結果、『時計屋探偵の冒険 アリバイ崩し承ります2』が新たに三票を獲得し、先の三作品と合わせて、この四作をそのまま候補作にするかどうかが話し合われた。『名探偵に甘美なる死を』『方舟』『時計屋探偵の冒険』については、票を投じなかった予選委員からいずれも「反対はしない」という意見が出て候補作に決まったが、『君のクイズ』をめぐり紛糾した。本格ミステリとしては推せない、推してもいいのか、推して世に問いたい、という意見のせめぎ合いの中で、『揺籃の都 平家物語推理抄』が新たに票を集め、対抗馬として浮上した。推薦者からはそれぞれに推したい理由が重ねて語られ、同時にもう一作を推したくない根拠も熱く伝えられた。会員アンケートの票数を指標にするという案も出たが(『君のクイズ』のほうが得票数は多い)、票が少ないのは読まれていないからで、むしろ候補作にすることで読まれるべき作品だという意見にも説得力はあり、また運営委員からは「どうしても決まらないのであれば、今年度の大賞候補作品は四作品ということで選考を終了してはどうか」という提案もされたが受け入れられず、実にこの件だけで四十分を超える侃侃諤諤(かんかんがくがく)の議論が続けられた。最終的に『揺籃の都』が五番目の席を獲得することで決着したが、多数決を用いず、話し合いだけで全候補作が決定したのは、ここ十年を振り返っても初めてのことだった。(霧舎 巧)
【評論・研究部門】
五人の予選委員が持ち寄った推薦作は、阿津川辰海『阿津川辰海 読書日記 かくしてミステリー作家は語る〈新鋭奮闘編〉』、太田克史編『新本格ミステリはどのようにして生まれてきたのか? 編集者 宇山日出臣 追悼文集』、松本清張『松本清張推理評論集 1957-1988』、風間賢二『怪異猟奇ミステリー全史』、円居挽他『円居挽のミステリ塾』、日暮雅通『シャーロック・ホームズ・バイブル 永遠の名探偵をめぐる 170年の物語』、怪異怪談研究会監修『〈怪異〉とミステリ 近代日本文学は何を「謎」としてきたか』、オール讀物責任編集『西村京太郎の推理世界』、北原尚彦・村山隆司『シャーロック・ホームズの建築』の九作だった。
投票先の変更が確認された後、票を失った『西村京太郎の推理世界』が推薦作から消え、満票の『阿津川辰海 読書日記』が候補作に決定。情報量の多いガイド本にして、著者の楽しむ姿が伝わってくる評論だという見解が大勢を占めた。四票の『新本格ミステリはどのようにして生まれてきたのか?』には資料になり得る豪華な追悼文集だが「評論研究」ではないという意見が相次ぎ、ひとまず判断保留となった。
この時点で三票を獲得していたのは四冊。『松本清張推理評論集 1957-1988』については、時代を築いた作家の存在感、論理性を重んじる文言の価値などが論じられた。『怪異猟奇ミステリー全史』は社会風俗がミステリを生んだとする説が興味深く、現代に繋がる文学史の流れが美しいと評された。『円居挽のミステリ塾』は優れたガイド本であると同時に、作家たちの多彩な創作論を引き出していると支持を得た。『シャーロック・ホームズ・バイブル』に対しては、読物として楽しめる完成度の高い研究書だが、ベアリング=グールドの年表を使うことを看過できないとする声もあった。
二票が入っていた『シャーロック・ホームズの建築』は、イラストを通じて新しい視点でホームズ譚を見られる構成が評価された。同票の『〈怪異〉とミステリ』は『怪異猟奇ミステリー全史』とは対照的な専門書だが、記事が玉石混淆(ぎょくせきこんこう)だという苦言も呈された。
一通りの議論が交わされた後、投票先の変更が行われ、満票の『怪異猟奇ミステリー全史』と四票の『松本清張推理評論集 1957-1988』が候補作に決定。改めて票を募った結果、三票の『円居挽のミステリ塾』と『シャーロック・ホームズの建築』が候補作となった。 (福井健太)
▼選評
◎市川憂人
投票者でなく委員として議論し作品を選ぶのは初めての経験でしたが、『何かを選ぶ=何かを選ばない』という事実の重み、そして自身の力不足を思い知らされました。両部門とも結果に異論はないのですが、「もっと良い意見を述べられたのではないか」「もっと深く読んで推せたのでは」等の思いを拭い切れません。
それだけ傑作秀作揃いでした。
小説部門は「ともかく推したい理由がある作品をまず推す」「フェア度優先」の姿勢で臨みました。結果、私が一番浮いてしまう事態に……。『侵略少女』を推し切れなかったのは残念。俎上(そじょう)に載らなかった中にも推したかった作品が多々。断腸の思いです。
評論・研究部門は悩んだ末、「評論・研究している」「現代作を取り上げたもの優先」「一冊の中で流れがある」を軸に推しました。全体として古今東西にベクトルが向いた候補五作となったかと思います。『建築』を当初見落としていたのは痛恨の極みでした。反省。
◎今村 昌弘
昨年の各種ランキングやアンケート結果から、すんなり決まるのではという予想を覆す、熱い予選会になりました。六作選ぶことができれば、という苦しみがこれほどのものとは。『君のクイズ』を推しきれなかったのは残念ですが、『名探偵に甘美なる死を』が高評価を得たのは収穫でした。全体的に本格のテイストが強めの顔ぶれになったのではないでしょうか。
評論・研究部門は、それぞれの強み、魅力が違いすぎて比べること自体が困難、というのが本音です。他の委員の意見を聞き、なるほどと思い動かした票もあり、勉強になりました。怪異関連の二冊は、本を通しての流れ、理解のしやすさから『怪異猟奇ミステリー全史』に票を投じました。『シャーロック・ホームズの建築』のような本が選ばれたのも、新しい風を感じます。どちらの部門も、どんな投票結果になるのか楽しみです。
◎宇田川 拓也
今回一番の目的だった『名探偵に甘美なる死を』を小説部門の候補にすることが果たせてなにより。『捜査線上の夕映え』と『録音された誘拐』も推したが、力及ばず。『君のクイズ』と『揺籃の都』、どちらを五つ目の候補にするかにもっとも時間が割かれたが、すでに注目を集めるミステリとしても読める小説と、うっかり見過ごされている印象の本格ミステリの力作、同じ光を当てるなら――。落ち着くところに落ち着いた結果だと思っている。
評論・研究部門では、迸(ほとばし)るミステリ愛に圧倒される『阿津川辰海 読書日記』と流れが美しい『怪異猟奇ミステリー全史』は順当。『松本清張推理評論集』は、企画・内容ともに申し分ないが、中島河太郎の代筆として知られる文章が注記なく収録されているという説を事前に目にして迷うも、誤解であると判明(波多野様のご教示に感謝)。『シャーロック・ホームズ・バイブル』も強く推したが、切り口斬新な『~建築』に競り負けた。
◎大倉 崇裕
2022 年における名探偵とは。その答えを探しながら臨んだ、選考会でした。議論を通して、自分なりの答えが見つかったように思います。
【小説部門】は意外にももつれ、激論を戦わせる事となりました。そんな中で『揺籃の都 平家物語推理抄』が候補作入りしたのは、大変に嬉しい結果でした。一方で『秘境駅のクローズド・サークル』を推しきれなかったのは、残念無念。
【評論・研究部門】は昨年にも増して刺激的で、ミステリーの奥深さを堪能できる五作が揃ったと思います。個人的に感銘を受けた『シャーロック・ホームズの建築』を予選委員推薦として会に持ちこんだのですが、それが何と候補作になり、驚くやら嬉しいやら。
二年にわたり予選委員を務めさせていただきました。ミステリーの面白さをあらためて感じると共に、大いに勉強にもなりました。ありがとうございました。
◎波多野 健
まず「二律背反のアリバイ」始め粒揃いの『時計屋探偵』が会員の投票対象にもならない事態を回避できてよかった。『方舟』『名探偵のいけにえ』は細かい難癖はつけられようが大局では推す以外の選択肢はない作品。『名探偵に甘美なる死を』に異存はないが、個人的には『孤島の来訪者』の方が好きだ。『揺籃の都』は『蝶として死す』に見劣りした。『君のクイズ』は、クイズ村の論理がTV村の論理に敵わないのがミソで、クイズ部分は結論さえ独創なら前段が専門家の受け売りでOKなのは歴史推理や暗号物と同じ。『或るアメリカ銃』も推しきれなかった。
評論では清張が、論理の整合性を強制する外的制約が必要と言う論者だった――ならば特殊設定や現代に繋がる。『円居挽のミステリ塾』は題から予期した以上の収穫。『阿津川辰海 読書日記』は立派だが、結局は大規模なガイドブック。怪異については、怪異怪談研究会の論考を推したが、『全史』の入門書的意義に同意した。ホームズ物では『建築』の独自性を買った。
▼候補作アンケート
31通(メール28通、FAX3通)
*31→33→42→36→35→37→30→30→27→30→27→39→36→34→31 と、昨年より減少。
【アンケート結果】(タイトル五十音順)
◎小説部門
『赤虫村の怪談』大島清昭 東京創元社
『明智卿死体検分』小森収 東京創元社
『或るアメリカ銃の謎』柄刀一 光文社
『入れ子細工の夜』阿津川辰海 光文社
『invertⅡ 覗き窓の死角』相沢沙呼 講談社
『エンドロール』潮谷験 講談社
『俺ではない炎上』浅倉秋成 双葉社
『神薙虚無最後の事件』紺野天龍 講談社
『記憶の中の誘拐 赤い博物館』大山誠一郎 文春文庫
『君のクイズ』小川哲 朝日新聞出版
『月灯館殺人事件』北山猛邦 星海社
『此の世の果ての殺人』荒木あかね 講談社
『サーキット・スイッチャー』安野貴博 早川書房
『栞と嘘の季節』米澤穂信 集英社
『仕掛島』東川篤哉 東京創元社
『11文字の檻 青崎有吾短編集成』青崎有吾 創元推理文庫
『呪縛伝説殺人事件』羽純未雪・二階堂黎人 南雲堂
『小説の小説』似鳥鶏 KADOKAWA
『情無連盟の殺人』浅ノ宮遼・眞庵 東京創元社
『#真相をお話しします』結城真一郎 新潮社
『侵略少女』古野まほろ 光文社
『世界の望む静謐』倉知淳 東京創元社
『捜査線上の夕映え』有栖川有栖 文藝春秋
『時計屋探偵の冒険 アリバイ崩し承ります2』大山誠一郎 実業之日本社
『ナゾトキ・ジパング』青柳碧人 小学館
『灰かぶりの夕海』市川憂人 中央公論新社
『名探偵に甘美なる死を』方丈貴恵 東京創元社
『名探偵のいけにえ 人民教会殺人事件』白井智之 新潮社
『名探偵の生まれる夜 大正謎百景』青柳碧人 KADOKAWA
『方舟』夕木春夫 講談社
『パラレル・フィクショナル』西澤保彦 祥伝社
『密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリック』鴨崎暖炉 宝島社文庫
『ルームメイトと謎解きを』楠谷佑 ポプラ社
『煉獄の時』笠井潔 文藝春秋
『録音された誘拐』阿津川辰海 光文社
『六法推理』五十嵐律人 KADOKAWA
『揺籃の都 平家物語推理抄』羽生飛鳥 東京創元社
◎評論・研究部門
『阿津川辰海 読書日記 かくしてミステリー作家は語る〈新鋭奮闘編〉』阿津川辰海 光文社
『怪異猟奇ミステリー全史』風間賢二 新潮選書
『海外ミステリ作家スケッチノート』松坂健 盛林堂ミステリアス文庫
『〈怪奇〉とミステリ 近代文学は何を「謎」としてきたか』怪異怪談研究会(監修)/乾英治郎/小松史生子/鈴木優作/谷口基 青弓社
『刑罰 解説』千街晶之 創元推理文庫(フェルディナント・フォン・シーラッハ)
『シャーロック・ホームズ・バイブル 永遠の名探偵をめぐる170年の物語』日暮雅通 早川書房
『少女を埋める』桜庭一樹 文藝春秋
『新本格ミステリはどのようにして生まれてきたのか? 編集者宇山日出臣追悼文集』太田克史編 星海社
『松本清張推理評論集1957-1988』松本清張 中央公論新社
『円居挽のミステリ塾』円居挽ほか 星海社新書
『西村京太郎の推理世界』オール讀物責任編集 文春ムック
『法月綸太郎の消息 解説』琳 講談社文庫(法月綸太郞)
『再び方舟の中へ』有栖川有栖 メフィストリーダーズクラブ 講談社
『四つの厳粛な推理――陸秋槎『文学少女対数学少女』を読む』横井司 探偵小説研究会「CRITICA vol.17」
※下記2作品は予選委員推薦作
小説部門『秘境駅のクローズド・サークル』鵜林伸也 東京創元社
評論研究部門『シャーロック・ホームズの建築』北原尚彦[文]/村山隆司[絵・図] エクスナレッジ
▼今後のスケジュール
3月10日(金) 投票用紙発送
5月08日(月) 投票しめきり。消印有効とするが開票式前日までに到着していること。
5月12日(金) 開票式@都内某所
6月24日(土) 総会・贈呈式@都内某所
6月25日(日) 受賞記念トークショー&サイン会@芳林堂書店(高田馬場)
※日程は暫定的なものです。また開票式、総会・贈呈式、トークショー&サイン会は、人数を絞りつつ、従来に近い形での開催を検討しております。
3.第23回「本格ミステリ大賞」開票式について
昨年と同様、開票作業と結果発表は執行会議メンバー、事務局で執り行います。
(2023.03.02発行)
「本格ミステリ作家クラブ通信」第85号
1.第22期総会・第23回「本格ミステリ大賞」贈呈式までのスケジュール
12月06日(火) 大賞アンケート発送(メールのみ)
1月10日(火) アンケートしめきり(FAX、メール同日有効。郵送の場合は消印有効)
1月24日(火) 予選委員推薦作通知しめきり
2月11日(土) 候補作予選委員会=市川憂人、今村昌弘、大倉崇裕、波多野健、若林踏(zoom)
2月27日(月) 投票用紙発送
5月08日(月) 投票しめきり
5月12日(金) 開票式 都内某所
6月24日(土) 総会・贈呈式 都内某所
6月25日(日) 受賞記念トークショー&サイン会 @芳林堂書店(高田馬場)
※日程は暫定的なものです。また開票式、総会・贈呈式、トークショー&サイン会は、その時点の新型コロナウイルス感染拡大の状況を見ながら開催方式を検討します。
3.退会会員
・光原百合氏(8 月 24 日ご逝去のため)
4.太田忠司事務局長からの報告
今年もあと一ヶ月と少しとなり、来年の本格ミステリ大賞へ向けて動き出す時期となりました。
「これこそが本格ミステリ!」と胸を張って世に示せる作品を顕彰しましょう。
皆様、アンケートをよろしくお願いいたします。
来年は総会も贈呈式もリアルで行えればと思っています。以前のように飲食を伴ったパーティは無理でも、少なくとも会員の皆さんや出版社の方々とのコミュニケーションが行えるような場は用意したい。新型コロナ感染状況如何ではありますが、可能性は探っていきます。
(2022.12.08発行)
「本格ミステリ作家クラブ通信」第84号
1.第22回本格ミステリ作家クラブ総会の報告
(1)議長団の選出
会則26条に基づき、執行会議のメンバーから以下の議長団を選任した。
議長・太田忠司 書記・千澤のり子
議長団は拍手多数をもって承認された。また議事進行において特に異議のない場合は、拍手で承認することを確認した。
(2)東川篤哉会長の挨拶
お暑い中を集まっていただきまして、誠にありがとうございます。奇譚のない意見を出していただき、本格ミステリ作家クラブの発展につなげたいと思います。
(3)定足数の確認、入退会者の承認
出席者11名、委任110名で、合計121名となり、正会員数の201名の半数を超えているので定足数を満たし、会則 27 条により総会が成立した。
続いて執行会議が承認した新入会員について議長から簡単な紹介をした後、
・嵩平何 氏(深水黎一郎/関根亨=推薦)
・斜線堂有紀 氏(関根亨/青柳碧人=推薦)
以上2名の入会が全会一致で承認された。
また、本人都合により会員の権田萬治氏、村瀬継弥氏、田奈純一氏(逝去)の退会が報告された。
(4)第21期活動報告 議案書参照
コロナ禍のため、掲示板上で執行会議を継続した。第22回本格ミステリ大賞のスケジュールと詳細、アンソロジー文庫の進行確認、決定を行った。
(5)第21期会計報告
監事である竹本健治からの監査報告書を議長の廣澤吉泰が代理で読み上げた。
(6)第22期予算案
ホームページ更新担当と書記担当の報酬を後日話し合って決めることになった。後日ホームページ更新作業の報酬を月10,000円×12ヶ月(昨期、月15,000円×12ヶ月)にして経費節減、書記の手数料を1万円から3万円と決定した。
(7)改選について
現執行会議体制は2021年総会までが任期(コロナ禍のため一年延長)となっていたため、次期執行会議の改選が行われた。選挙管理委員の明利英司と稲羽白菟により、立候補と推薦の確認がおこなわれ、以下のように決定した。
・会長:麻耶雄嵩
・事務局長:太田忠司
・大賞運営委員:霧舎巧、鳥飼否宇、福井健太
・賛助会員担当:廣澤吉泰
・アンソロジー担当:関根亨
・書記:千澤のり子
・サイト担当:黒田研二
・イベント担当:北村一男、大崎梢、青柳碧人
・会計:深水黎一郎
・執行会議:芦辺拓、小島正樹、似鳥鶏、大山誠一郎
・執行会議オブザーバー:イクタケマコト、若林踏
※新体制にて2年間の任期でおこなう。
(8)麻耶雄嵩新会長の挨拶
この度、本格ミステリ作家クラブの会長に就任した麻耶雄嵩です。本格ミステリが大好きで、また本格ミステリしか書けない人間なので、本格ミステリというジャンルが勢いをなくすと真っ先に干上がってしまいます。そうならないためにも、会員のみなさまと一緒に本格ミステリを盛り上げていきたいと思います。よろしくお願いします。
(9)本格ミステリ大賞選考の見直し
投票締切から開票式までの期間が短く、郵便遅延の懸念がなされたが、運営スケジュールと重ねて検討し、現状のままとなった。各自で早めにポスト投函、メールの場合は送信アドレスミスのないように注意する。
Google フォームを使うという案があり、アンケートで試しにおこなうかと検討がなされたが、次回以降の執行会議に持ち越しとなった。
(10)大賞贈呈式とトークショーについて (文責:北村一男)
【大賞贈呈式】6月25日 都内某社会議室
総会終了に合わせ、東京創元社を受賞者の芦辺拓、米澤穂信、小森収各氏が訪れ(芦辺・米澤両氏は奥様ご同伴)、太田事務局長の司会により東川会長よりトロフィーが贈呈された。
こじんまりした会場ながら、受賞挨拶はそれぞれの個性が際立つ魅力的なものだった。東川氏としては最後の会長仕事となり、以後、麻耶新会長に引き継がれる。
【記念イベント】6月26日 紀伊国屋書店新宿本店
3年ぶりかつ、初のオンライン開催だったので、今後の参考に、経過を報告します。
第1部 13:00~14:00(集合 12:15):芦辺拓・米澤穂信・小森収・東川篤哉・青柳碧人(司会)によるオンライントーク(9階イベントスペース)。応募 358、リアルタイム視聴 150。
*応募者には期間限定でアーカイブ配信あり。
受賞3人と2名が分かれたテーブル、パーティション設置。マイク5本。トロフィー展示。
司会が用意した台本+あらかじめ寄せられた読者からの質問をもとに、あっという間の1時間でした(あと20分、あと10分のカンペ提示)。
限られた時間でしたが、みなさん本格愛を熱く語っていただきました。
第2部 14:30~16:30(途中トイレ休憩):上記5名によるサイン会(2階 BOOK SALON)。178名応募から抽選で100名、参加は72名。
A~Eの20名ずつ時間差集合、スマホによる当選番号確認と検温ののち、為書用のフルネームが記された整理券とサイン対象書籍一覧(税込価格表示)を手に入場。
サインは1作家2作品まで(売上総数363冊)。レジ1台。
サインの並び具合を見ながら書店員が誘導。サインサポートは担当編集者+事務局。
それぞれ会話を交わしながらの和やかな雰囲気でした。
16:30 終了、店頭用のサイン本をそれぞれ20冊ほど作る。
次回開催予定の高田馬場芳林堂担当にも現場を見てもらいました。
人数制限によるリアルとオンラインの併用開催、サイン会読者の時間差集合等、来年以降もしばらくは踏襲せざるを得ないかもしれません。
3年ぶりのイベント開催を実現・成功させてくれた紀伊国屋書店、関係各位に感謝です。
(11)今後の運営について
基本的には執行会議の掲示板を使っておこなう。不都合もあるかもしれないが、少しずつ直していく。
2.第22回本格ミステリ大賞 受賞者のコメント
〔小説部門〕『大鞠家殺人事件』芦辺拓
◎芦辺拓氏のコメント
二十二回中六度--この数字は人によっては恥ずかしいものかもしれませんが、私にとってはまさに挑戦の記録でした。「本格」を評価軸とする賞が生まれたのは喜ばしいことでしたが、それは年に一度、このジャンルを愛する人々の手で審判が下されることでもありました。ために、賞の候補に選ばれ、あるいは選ばれぬたびに反省と変革を重ねてきたといっても過言ではありません。
今、そこから一歩進み出ることができ、しかも若いながらはるか先を行く才能と並び得たことは、私の最も喜びとするところです。これからは、以前より少しは迷いなく書き続けてゆくことができるでしょう。何よりそのことに御礼申し上げます。
〔小説部門〕『黒牢城』米澤穂信
◎米澤穂信氏のコメント
本格ミステリであることは小説の何かを諦めることを意味せず、逆もまた真であることを、幾人もの先達の幾多の傑作に教わってきました。『明治断頭台』の、あの血まみれの最終章を本格ミステリが描き出した小説の到達点の一つと仰ぎ見て、せめてその足元には及びたいと願って書いたものが『黒牢城』です。その小説がいま、本格ミステリとしての栄誉ある賞を受けたことを、心から光栄に思います。ありがとうございました。
〔評論・研究部門〕『短編ミステリの二百年1~6』小森収
◎小森収氏のコメント
『短編ミステリの二百年』は、様々な人たちの支援と助力のうえに出来上がっています。収録短編を翻訳してくださった、深町眞理子、猪俣美江子、直良和美、藤村裕美、門野集、白須清美の各氏。編集部内で支えてくれた小浜徹也、桑野崇、宮澤正之の各氏。伊藤朗子、菅治代、佐藤瞳、添田理沙、田中久紀子、田中睦美、外岡千代子、平賀寿子、星野真理、他匿名希望の五名を含めた校正各位。装丁の中村聡、装画の柳智之ご両名。ありがとうございました。
3.新入会員の紹介
◎嵩平何(たかひら・なに)氏[深水黎一郎/関根亨=推薦]
自己紹介:1986 年東京都生まれ。探偵小説研究会会員。専門はミステリ評論・研究書・ファンジン類やミステリマンガなど。冊子などの紙ものや書誌が大好物。未知なる資料を求めて古書店を渉猟する。中編パズラーの最高峰たる園田修一郎作品集の実現や氏の新作を求む。埋もれた作品・資料の紹介や復刊、書誌・目録作りにも今後積極的に取り組んでいきたい。
推薦理由:嵩平何さんは大変な読書家で、書誌学にも優れ、年末のランキング等ではその博識ぶりを発揮されています。本会に必要な人材であると思い、強く推薦いたします。(深水黎一郎)
◎斜線堂有紀(しゃせんどう・ゆうき)氏[関根亨/青柳碧人=推薦]
自己紹介:2017 年デビュー。主な著書に『楽園とは探偵の不在なり』などがあります。ペンネームの由来にもなった島田荘司先生の『斜め屋敷の犯罪』が好きです。頑張ります。
推薦理由:斜線堂有紀さんは 21 年の本格ミステリ大賞候補で、本ミス系ランキングにも選出されています。
SNSを通じて内外のミステリ紹介を行うなど活躍され、会員にふさわしいと推薦します。(関根亨)
(2022.10.21発行)
「本格ミステリ作家クラブ通信」第83号
1.第22回「本格ミステリ大賞」候補作決定
【小説部門】候補作(タイトル50音順)
『蒼海館の殺人』阿津川辰海(講談社タイガ)
『大鞠家殺人事件』芦辺 拓(東京創元社)
『救国ゲーム』結城真一郎(新潮社)
『黒牢城』米澤穂信(KADOKAWA)
『六人の嘘つきな大学生』浅倉秋成(KADOKAWA)
【評論・研究部門】候補作(タイトル50音順)
『犬神家の戸籍 「血」と「家」の近代日本』遠藤正敬(青土社)
『新世代ミステリ作家探訪』若林 踏(光文社)
『短編ミステリの二百年1~6』小森 収(編)(創元推理文庫)
『法月綸太郎ミステリー塾 怒濤編 フェアプレイの向こう側』法月綸太郎(講談社)
『米澤屋書店』米澤穂信(文藝春秋)
第22回「本格ミステリ大賞」候補作決定のための予選会は2月12日に、大賞運営委員・霧舎巧、鳥飼否宇、福井健太の立ち会いのもと、予選委員・大倉崇裕、川辺純可、波多野健、水生大海、若林踏によってリモート会議の方式で行われた。
▼選考経過
【小説部門】
昨年度に続き、今回もコロナ禍の状況を踏まえ、予選会はリモートでおこなわれた。
予選委員が挙げた推薦作は、相沢沙呼『invert 城塚翡翠倒叙集』、浅倉秋成『六人の噓つきな大学生』、阿津川辰海『蒼海館の殺人』、芦辺拓『大鞠家殺人事件』、潮谷験『時空犯』、知念実希人『硝子の塔の殺人』、柄刀一『或るギリシア棺の謎』、三津田信三『忌名の如き贄るもの』、結城真一郎『救国ゲーム』、米澤穂信『黒牢城』の十作品だった(著者五十音順)。
このうち、予選委員全員が推した『大鞠家殺人事件』がまず候補作に決まった。四人の予選委員が推薦した『蒼海館の殺人』と『黒牢城』も、残る一名がそれぞれ「推さない理由はない」として、異論なく決定した。三作品とも本格ミステリの評価の高さに加え、『大鞠家殺人事件』は時代風俗の融合と描写に秀でている点、『蒼海館の殺人』はディザスター小説の魅力も兼ね備えている点、『黒牢城』は歴史小説としても読ませる点、などがプラス要素になった。
その後、残る二席を巡り議論を重ねた結果、『invert 城塚翡翠倒叙集』『硝子の塔の殺人』『忌名の如き贄るもの』が候補から外れることになった。『invert 城塚翡翠倒叙集』は倒叙を超えた叙述トリック、『硝子の塔の殺人』は新本格ミステリの先鋭化、『忌名の如き贄るもの』は物語の作り方のうまさ、などが推薦者の口から熱く語られたが、本年度はほかの作品が粒ぞろいだったため、推薦者はそれぞれの票を他作品に回すことになった。
続いて、構成力と伏線の巧みさが評価された『六人の噓つきな大学生』、特殊設定ミステリの本年度最高作と評された『時空犯』、論理の緻密さが好評だった『或るギリシア棺の謎』、ドローンのトリックの論理展開に賛辞が送られた『救国ゲーム』の四作品で多数決がおこなわれた。結果、全員が手を挙げた『六人の噓つきな大学生』がまず候補作に決まった。『或るギリシア棺の謎』は賛同が得られず、ここで選から漏れた。票が割れた『時空犯』と『救国ゲーム』では、もともと推薦者(最初に五作品を挙げた段階で)の数が多かった『救国ゲーム』が、再投票することなく候補作に決まった。全体を通して、各予選委員から「六作品選ぶことが出来たらよかったのに」という声が度々聞かれ、実際の票数ほどの差はついていない良作に恵まれた予選会となった。(霧舎 巧)
【評論・研究部門】
予選委員の推薦作に挙げられたのは、法月綸太郎『法月綸太郎ミステリー塾 怒濤編 フェアプレイの向こう側』、米澤穂信『米澤屋書店』、若林踏『新世代ミステリ作家探訪』、鈴木優作『探偵小説と〈狂気〉』、小森収編『短編ミステリの二百年 6』、遠藤正敬『犬神家の戸籍 「血」と「家」の近代日本』、佳多山大地『新本格ミステリを識るための 100 冊 令和のためのミステリブックガイド』、小森収編『短編ミステリの二百年』(選集として)、竹内康浩・朴舜起『謎解きサリンジャー 「自殺」したのは誰なのか』、鯨統一郎『金閣寺は燃えているか?』、書評七福神編著『書評七福神が選ぶ、絶対読み逃せない翻訳ミステリベスト 2011─2020』の十一点だった。
投票先の変更を確認し、候補者でもある若林が離席(映像と音声を遮断)した後、各作品の検討が始められた。著者以外の四人が推した『新世代ミステリ作家探訪』は、インタビューの人選や創作法に踏み込む姿勢が支持を受け、最初の候補作に決定。ここで若林が席に戻り、改めて会議に加わる形になった。
本への愛情を感じさせる、若い読者の参考になる──などの意見を集めた『米澤屋書店』が全会一致で候補作に決まり、残りの三枠についての議論に移った。『フェアプレイの向こう側』は解説が中心でも世界観を持つ評論書になり得る実例として四票を得た。戸籍という切り口が注目された『犬神家の戸籍』は三票を獲得。『短編ミステリの二百年』は全六巻を纏めて評すべきだという結論に達した。
二票が入った『新本格ミステリを識るための 100 冊』には、独自性を買う半面、一冊ごとの内容が浅いという意見も出た。『探偵小説と〈狂気〉』はテーマの魅力を強調したうえで、主要文学や現代に繫がる視点の乏しさが指摘された。『金閣寺は燃えているか?』は楽しい読み物であると判断された。『書評七福神が選ぶ、絶対読み逃せない翻訳ミステリベスト』には、現代翻訳ミステリ合評の意義を認めながらも、七人居ても偏りが生じる時評の難しさを指摘する声が多かった。
会員アンケートで支持を得た瀬戸川猛資・松坂健『二人がかりで死体をどうぞ』は、国内ミステリ関連の内容が弱く、貶し文句に難があるとされた。この時点でゼロ票だった『謎解きサリンジャー』を除いて再投票を行い、満票の『短編ミステリの二百年 1~6』と四票の『フェアプレイの向こう側』『犬神家の戸籍』が候補作に決定した。(福井健太)
▼選評
◎大倉崇裕
初めての参加ということで緊張して臨みましたが、二〇二一年を総括する、珠玉の作品たちが選ばれたと思います。
【小説部門】では、『invert 城塚翡翠倒叙集』を予選委員推薦作としました。残念ながら候補とはならなかったのですが、実に挑戦的な本格ミステリの傑作として記憶に留めるべきと考えます。また『時空犯』もギリギリ選に漏れてしまいました。これはちょっと残念。推しが足りませんでした。
【評論・研究部門】の各作品はどれも実に刺激的でした。最終的に、過去、現在、国内、海外と言った要素がバランス良く配されている候補作群になったと思います。個人的には一推しであった『探偵小説と〈狂気〉』が候補とならなかったのは残念ですが、『短編ミステリの二百年』を 1~6 という形で候補とできたことは良かったと思っています。
どの作品が大賞を射止めるのか、まったく予想がつきません。本選が楽しみです。
◎川辺純可
今年は、両部門とも大変な豊作だったのではないでしょうか。候補作はもちろん、その他の作品も質が高く「せめて、あと一つ枠があれば」と何度も頭を抱えました。
小説部門では SF としても秀逸な『時空犯』。骨太の世界観と古典的な謎解きの融合がすばらしく、候補に残せなかったことが残念でなりません。
評論・研究部門でも「新青年」時代の息吹がダイレクトに伝わる研究論文『探偵小説と〈狂気〉』や、近年の翻訳ミステリを多角的な視野で紹介した書評集『書評七福神が選ぶ、絶対読み逃せない翻訳ミステリベスト 2011─2020』など、お薦めしたい良本がまだまだたくさんありました(……つらい、つらい)。
最後にわたくしごと。重大なお役目も今回で終了。力不足ながら、「ミステリ愛」を手放さぬよう、真摯に取り組んだミッションでした。ご縁に感謝しつつ、混戦必至の最終結果を待ちたいと思います。
◎波多野健
古典的な『大鞠家殺人事件』、社会的問題を本格だからこその切り口で扱う『救国ゲーム』、連作短編を長編化して歴史小説の域に踏み込んだ『黒牢城』を推す。私が推した『或るギリシア棺の謎』は、同じくロジックの妙技を追求する『蒼海館の殺人』に全体として競り負けた。『六人の噓つきな大学生』は論理の運用に問題を感じるが、プロットが素晴らしいので同意した。『硝子の塔の殺人』は推し切れなかった。特殊設定に『時空犯』ありだが五作には及ばなかった。
評論作品は最上の部分で評価されるべきで、そういう図抜けた作品論・作家論は、小森作品なら、「ジェミニー・クリケット事件」論、法月作品なら、『死霊』論とロス・マクドナルド『一瞬の敵』論だ。米澤作品は米澤穂信論に、若林作品は現代新進作家論になっていて、印象批評の寄せ集めでないので推した。ミステリ批評の方法論で純文学を扱った『金閣寺は燃えているか?』だったが、推し切れなかった。『犬神家の戸籍』は骨董趣味以上に研究として優れていた。
◎水生大海
小説部門も評論・研究部門も挙げられる作品は五作。けれど六作の枠があればいいのにとさんざん悩みました。『忌名の如き贄るもの』を最後まで推し通せなかったのは残念でしたが、ボーダーラインで天秤にかけていた作品が残ったので、結果に異論はありません。どれも魅力的な力作で、方向性もバラエティに富み、ここからさらに一作をどう決めるのか、みなさまどうぞ一緒に悩んでください(……五作選ぶのも大層疲れました)。
評論・研究部門に対して私は、ブックガイド、解説や評論をまとめたもの、何らかのテーマ・切り口を掘り下げたもの、の三つの観点で絞りました。もちろん複数の要素を持つ作品もあります。最終候補作は皆オリジナリティや視点の新しさがあり、いいバランスだと納得しています。推したけれど選に洩れた『書評七福神が選ぶ、絶対読み逃せない翻訳ミステリベスト 2011─2020』も現代作の翻訳ミステリブックガイドとして面白いですよ。
◎若林踏
小説部門の結果については、恰幅の良い物語を描いたベテランの作品と、謎解きの可能性を広げる新進の作品が候補に残り、概ね満足している。強く推した潮谷験『時空犯』を残せなかったのが唯一の心残りである。しかし著者はデビューから一年未満の新人だ。今後の活躍に期待したい。
評論・研究部門だが、自著である『新世代ミステリ作家探訪』について議論には加わらなかったことをまず記しておく(予選会前、運営委員に確認のうえ、先例に倣い対応した)。こちらも小説部門同様、結果について異存はないが、作品の対象範囲に関するルールについて議論が費やされた点については「事前の整備がもっと必要では」という気がする。過度に厳密な規定を行うことは避けるべきだが、ある程度は詳細な指針を明文化しておく方が望ましいだろう。今回で私の任期は終了するが、今後の予選会が一層スムーズに進行できるよう、事務局および運営委員に御願いする次第だ。
▼候補作アンケート
34通(郵送20通、メール14通)
*31→33→42→36→35→37→30→30→27→30→27→39→36→34 と、昨年よりやや減少。
【アンケート結果】(タイトル五十音順)
◎小説部門
『蒼海館の殺人』阿津川辰海 講談社
『あと十五秒で死ぬ』 榊林銘 東京創元社
『雨と短銃』 伊吹亜門 東京創元社
『或るギリシア棺の謎』 柄刀一 光文社
『忌名の如き贄るもの』 三津田信三 講談社
『invert 城塚翡翠倒叙集』 相沢沙呼 講談社
『大鞠家殺人事件』 芦辺拓 東京創元社
『泳ぐ者』 青山文平 新潮社
『オルレアンの魔女』 稲羽白菟 二見書房
『影踏亭の怪談』 大島清昭 東京創元社
『硝子の塔の殺人』 知念実希人 実業之日本社
『甘美なる誘拐』 平居紀一 宝島社
『救国ゲーム』 結城真一郎 新潮社
『兇人邸の殺人』 今村昌弘 東京創元社
『境内ではお静かに 神盗みの事件帖』 天祢涼 光文社
『幻月と探偵』 伊吹亜門 KADOKAWA
『コージーボーイズ、あるいは消えた居酒屋の謎』 笛吹太郎 東京創元社
『黒牢城』 米澤穂信 KADOKAWA
『孤島の来訪者』方丈貴恵 東京創元社 ※2020年刊のため選外
『サーカスから来た執達吏』 夕木春央 講談社
『時空犯』 潮谷験 講談社
『推理大戦』 似鳥鶏 講談社
『蝶として死す』 羽生飛鳥 東京創元社
『トリカゴ』 辻堂ゆめ 東京創元社
『Butterfly World』 岡崎琢磨 双葉社
『花束は毒』 織守きょうや 文藝春秋
『Four Eyes 姿なき暗殺者からの脱出』 SCRAP&稲村祐汰 SCRAP出版
『ボーンヤードは語らない』 市川憂人 東京創元社
『僕が答える君の謎解き2』 紙城境介 星海社
『マザー・マーダー』 矢樹純 光文社
『ミステリー・オーバードーズ』 白井智之 光文社
『密室は御手の中』 犬飼ねこそぎ光文社
『指切りパズル』 鳥飼否宇 南雲堂
『四元館の殺人』 早坂吝 新潮社
『六人の嘘つきな大学生』 浅倉秋成 KADOKAWA
◎評論・研究部門
『犬神家の戸籍 「血」と「家」の近代日本』 遠藤正敬 青土社
『エラリー・クイーン完全ガイド』 飯城勇三 星海社
『金閣寺は燃えているか?』 鯨統一郎 東京創元社
『書評七福神が選ぶ、絶対読み逃せない翻訳ミステリベスト 2011-2020』 書評七福神(編著) 書肆侃侃房
『新世代ミステリ作家探訪』 若林踏 光文社
『新本格ミステリを識るための 100 冊』 佳多山大地 星海社
『探偵小説と〈狂気〉』 鈴木優作 国書刊行会
『短編ミステリの二百年 1~6』 小森収(編) 東京創元社
『短編ミステリの二百年 6 』 小森収(編) 東京創元社
『謎ときサリンジャー 「自殺」したのは誰なのか』 竹内康浩・朴舜起 新潮社
『フェアプレイの向こう側 法月綸太郎ミステリー塾 怒涛編』 法月綸太郎 講談社
『二人がかりで死体をどうぞ』 瀬戸川猛資・松坂健 書肆盛林堂
『米澤屋書店』 米澤穂信 文藝春秋
『令和探偵小説の進化と深化 特殊設定ミステリ座談会』 小説現代九月号 講談社
▼今後のスケジュール
05月10 日(火) 消印有効にて投票〆切
05月13 日(金) 開票式
06月25 日(土) 総会・贈呈式
15:30~17:00 総会
17:30~19:30 贈呈式
(なお、総会ついては今年も昨年と同様、直接の出席人数を抑えた開催とし、贈呈式も関係者のみでの開催、パーティは行わないことにいたします。ご了承願います)
06月 26日(日) 受賞記念座談会予定
3.第22回「本格ミステリ大賞」開票式について
新型コロナウイルス感染が収束していない現状を考慮し、5月13日に行われる開票式も昨年と同様、非公開とせざるを得なくなりました。
開票作業と結果発表は執行会議メンバーで執り行います。
5.第23回「本格ミステリ大賞」予選委員決定のお知らせ
・大倉崇裕氏(継続)
・波多野健氏(継続)
・市川憂人氏
・今村昌弘氏
・宇田川拓也氏
6.退会会員
・村瀬継弥氏 12 月 22 日退会の申し出あり
(2022.03.14発行)
「本格ミステリ作家クラブ通信」第82号
1.第21期総会・第21回「本格ミステリ大賞」贈呈式までのスケジュール
12月10日(金) 推薦作アンケート用紙を配布(*会員向け。本「会報」に添付)
01月07日(金) アンケート〆切(FAX・メール同日有効。郵送の場合は消印有効)
02月12日(土) 候補作選考委員会=大倉崇裕、川辺純可、波多野健、水生大海、若林踏(五十音順)
*候補作家の承諾確認後、候補作決定「速報」をメールで通知(大賞運営委員=霧舎巧、鳥飼否宇、福井健太)
02月下旬 候補作の選考経過と本選「投票用紙」を全会員に配布。
05月10日(火) 消印有効にて投票〆切
05月13日(金) 公開開票式
06月25日(土) 総会・贈呈式パーティ
15:30~17:00 総会
17:30~19:30 贈呈式
06月26日(日) 受賞記念トークショー&サイン会(都内某所、詳細未定)
※公開開票式、総会・贈呈式パーティ、トークショー&サイン会は、その時点の新型コロナウイルス感染拡大の状況を見ながら開催方式を検討します。
4. 太田忠司事務局長からの報告
本格ミステリ作家クラブ事務局長の太田忠司です。
ご存知のとおり、今年度から本格ミステリ作家クラブ事務局は創設以来担当していた光文社から東京創元社へと移管されました。
昨今の出版業界の状況による編集部の人員削減もあり、事務局の仕事を引き受けることが困難になったというのが、移管の理由です。
ただ、新しく事務局を引き受けることとなった東京創元社とて状況に変わりはなく、やはり事務局の仕事は大きな負担となります。
これからも本格ミステリ作家クラブを継続させ本格ミステリ大賞を今までどおり運営していくためには、事務局業務の健全化が必須の課題です。なので新しい事務局では従来の業務内容を見直し、省力化を図ることにいたしました。
そのために会員の皆さんにも3点、ご協力いただきたいことがあります。以下にその内容をお伝えいたします。
①本格ミステリ作家クラブ通信のメール送付
第82号を発送いたしました。お送りするのが遅れたことをお詫びいたします。
従来、本格ミステリ作家クラブ通信(以下、通信と略します)は印刷したものを郵便にて送付しておりました。
この形式は多大な時間と労力を必要とします。編集を終えた文書を印刷し折り畳み、宛先を印字した封筒に収めて投函する。これを200名近い会員全員に送っていました。到底、片手間では済まない作業量です。
また用紙代、印刷代、郵送費も馬鹿にはできない負担となっております。
以上の観点から、今後は通信をメールにて送付することにしたいと考えています。
具体的には、従来の印刷物での送付は今回の82号までとし、その後はメール送信といたします。
ただし、メールを使っていないなどの理由で従来どおりの印刷物でなければ困るという方がいらっしゃいましたら、事務局までご連絡ください。しかるべく対処いたします。
②年会費納入の簡略化
会費については、これまでは総会および大賞贈呈式に出席いただいたときに現金で徴収することが多かったのですが、ご存知のとおり新型コロナ感染拡大により総会も贈呈式もリアルでは行えなくなり、徴収の機会もなくなりました。来年は総会も贈呈式もリアルで行いたいという希望を持っておりますが、これも状況次第でどうなるかわかりません。
となると、会費を納入していただくためには振込しか方法がありません。
本格ミステリ作家クラブには***銀行と***銀行に口座を持っております。これまではそのどちらかに振り込んでいただくことにしておりました。しかしこれも事務局業務のスリム化のため、ひとつに集約したいと考えています。
事務局からは***銀行は振込された会員の名前が確認しにくいなど管理が難しいとの指摘があり、そのため今後は、会費を以下の口座にお振り込みいただくよう、お願いいたします。
③本格ミステリ大賞推薦作アンケート回答のペーパーレス化
この会報に同封している推薦作アンケートも、通信と同じ理由から次回以降はメールにて回答をいただくことにしたく思います。
これも通信と同じくメールを使っていないなどの理由で従来どおりの印刷物でなければ困るという方がいらっしゃいましたら、事務局までご連絡ください。しかるべく対処いたします。
なお、今回のアンケート用紙から本格ミステリ作家クラブのクラブ印押印を廃止いたしました。
今後もいろいろと検討を加え、クラブのサスティナブルな運営を目指していきたいと考えています。
この件を含め、ご意見などありましたら、事務局宛てご連絡ください。
よろしくお願いいたします。
事務局長 太田忠司
5.退会会員
・権田萬治氏 11月2日退会の申し出あり
・田奈純一氏 11月8日ご逝去
・ブックリスタ(賛助会員) 11月10日辞退の申し出あり
(2021.12.10発行)
「本格ミステリ作家クラブ通信」第81号
1.第21回本格ミステリ作家クラブ総会の報告
(1)議長団の選出
会則26条に基づき、執行会議のメンバーから以下の議長団を選任した。
議長・廣澤吉泰 書記・千澤のり子
議長団は拍手多数をもって承認された。また議事進行において特に異議のない場合は、拍手で承認することを確認した。
(2)東川篤哉会長の挨拶
お忙しいところをお集まりいただきましてありがとうございます。顔を合わせる機会もあまりないので、いろいろとご意見をいただければと思います。
(3)定足数の確認、入退会者の承認
出席者11名、委任127名で、合計138名となり、正会員数の199 名の半数を超えているので定足数を満たし、会則27条により総会が成立した。
続いて執行会議が承認した新入会員について議長から簡単な紹介をした後、
孔田多紀氏(円堂都司昭/東川篤哉=推薦)
佐藤青南氏(貫井徳郎/太田忠司=推薦)
藤也卓巳氏(織守きょうや/青柳碧人=推薦)
床品美帆氏(光原百合/太田忠司=推薦)
以上4名の入会が全会一致で承認された。
また、本人都合により会員の篠田秀幸氏の退会が報告された。
(4)第20期活動報告 議案書参照
コロナ禍のため、掲示板上で執行会議を継続した。第21回本格ミステリ大賞のスケジュールと詳細、アンソロジー文庫の進行確認、決定を行った。
(5)第20期会計報告 別紙参照
監事である竹本健治からの監査報告書を議長の廣澤吉泰が代理で読み上げた。
(6)第21期予算案 議案書参照
(7)現執行会議体制の延長について
現執行会議体制は2021年総会までが任期となっているが、コロナ禍により改選が行えない現状であるため、今回に限り1年延長となった。
(8)事務局変更
設立以来事務局を担当していた光文社から降板の申し出があり、東京創元社が引き継ぎを受託した。本格ミステリ大賞の公開開票式の会場は今後も光文社のプレゼンテーションルームにて行う。
選評は東京創元社から刊行される新雑誌の誌面上で掲載となる。
(9)20周年企画について
2010年代ベスト海外本格ミステリの選考が行われた。受賞作はアンソニー・ホロヴィッツ『メイン・テーマは殺人』で、選考座談会と受賞者の言葉は「ジャーロ」に掲載された。
(10)今後の運営について
議長より新規会員の勧誘活動など今後のクラブ運営に関する協力を依頼する呼びかけがあった。
1.事務局より事前にメールで募った会員の意見が公開された。
真田啓介ミステリ論集『古典探偵小説の愉しみ』が本格ミステリ大賞の評論研究部門から取り下げられたことに関する意見について。
刊行部数の少ない作品や同人誌が候補にあがった場合、事前に残部を確認する。
PDFで回覧を提唱した意見もあったが、著作権問題に抵触するので却下された。
会員の購入が行き渡らない作品を候補にするか否かは、各年の予選委員の判断に任せる。
今後の課題となるため、内規で引き継いでいくとなった。
2.事務局変更に伴う年会費の納入について
会報発送時に郵便振替用紙を同封していたが、***銀行口座では手続きが煩雑になる。
他の銀行口座では手数料が本人負担となるが、引き継ぎを円滑に行うことができる。
口座番号を一斉メールで伝えるべきかと案が出たが、執行会議にて喫緊の課題とする。
3.早くパーティーで再会したいという感想が会員からも多く寄せられている。
2.第21回本格ミステリ大賞 受賞者のコメント
〔小説部門〕『蟬かえる』櫻田智也
◎櫻田智也氏のコメント
完成した絵の外側にピースが何片か余るような。もしかしたらそのピースの嵌まる場所が、まだどこかにあるかもしれないような。探偵役の推理の対象が、理解しきることのできない誰かの心である以上、そんなパズラーにならざるを得ませんでした。本格ミステリと認めて評価いただき、誠にありがとうございます。殊勝な物言いに隠した、はしたないほどの悦びを、わが探偵・魞沢 泉(えりさわ せん)にあばかれずに済むのは作者の役得であり、幸いです。
〔評論・研究部門〕『数学者と哲学者の密室 天城一と笠井潔、そして探偵と密室と社会』飯城勇三
◎飯城勇三氏のコメント
このたび、一度でも光栄な〈本格ミステリ大賞〉を三度もいただき、喜びと興奮を感じています。票を投じてくれた皆さんには、あらためてお礼を申し上げます。ただし、今回の受賞に関しては、私の実力だけではありませんでした。本書は、天城一さんと笠井潔さんが書いたすばらしい作品の数々と書簡がなければ、受賞はできなかったでしょう。このお二人には、心から感謝します。そして、『本格ミステリ戯作三昧』に続いて、またしても風変わりな本を出してくれた南雲堂の星野氏にも感謝の言葉を。次作『本格ミステリの構造解析』も、よろしくお願いします。最後に、私の本を読んでくれた方々にお礼を。この本がきっかけになり、天城作品や笠井作品に手を伸ばしてくれたら、あるいは、新たな魅力を感じてくれたら、作者としてはこの上ない喜びです。
3.新入会員の紹介
櫻田智也氏(廣澤吉泰/青柳碧人=推薦)
自己紹介= 1977 年北海道生まれ。埼玉大学を出て静岡で就職。神奈川・岩手と徐々に北上し現在北海道在住。暮らした土地の記憶をつないで小説を書いています。著書に『サーチライトと誘蛾灯』『蟬かえる』(2021.6)
推薦理由=泡坂妻夫のテイストに満ちた『サーチライトと誘蛾灯』デビューされ、『蟬かえる』が第21回本格ミステリ大賞を受賞されるなど、今後本格ミステリの書き手として活躍が期待されるので推薦いたします。(廣澤吉泰)
(2021.10.17発行)