2015年度 第15回本格ミステリ大賞

【小説部門】『さよなら神様』麻耶雄嵩 (文藝春秋)
【評論・研究部門】 『アガサ・クリスティー完全攻略』霜月蒼(講談社)

 

5月12日開票の結果、大賞が以下の通り決まりました。候補作の獲得票数は以下の通り。
全選評は「ジャーロ」夏号(6.15発売)に掲載されます。

【小説部門】 有効投票数 54票
『黒龍荘の惨劇』岡田秀文 7票
『さよなら神様』麻耶雄嵩 19票
『僕の光輝く世界』山本弘 16票
『フライプレイ!』霞流一 8票
『冷たい太陽』鯨統一郎 4票

【評論・研究部門】 有効投票数 32票
『アガサ・クリスティー完全攻略』霜月蒼 21票
『大癋見警部の事件簿』深水黎一郎 3票
「情報化するミステリと映像」渡邉大輔 1票
「ループものミステリと、後期クイーン的問題の所在について」小森健太朗 1票
『路地裏の迷宮踏査』杉江松恋 6票

受賞の言葉

  麻耶雄嵩
 「さよなら神様」は10年ほど前に出た「神様ゲーム」の後続にあたる物語です。といっても登場人物や舞台のみならず、神様の容姿も全く別ものになっています。
 容姿まで変えたのは、重要なのは神様そのものではなく神様が持つ絶対的な機能だけなことを強調したかったためです。
 「神様ゲーム」では無条件に真実を語ることができる神様を軸に話が展開しましたが、「さよなら神様」では、その次のフェイズに進みたいということと連作短編集ということもあり、中盤以降、神様の存在すら逆手に取る、いわば絶対的に真である神様の言葉をいかにミステリ的に遊び倒すかを主眼に考えました。
 一人称なため地の文が存在せず、作品中で確かなものは神様の言葉だけ。にもかかわらず、神様の言葉からは混沌しか得られない。
冒頭からの犯人の指摘と併せて、逆説的で面白いと感じ取り掛かったのですが、それゆえ、ともすれば神様自体が遠景に退きがちになり、腫れ物に触るような扱いになったため、全体が人工的、遊戯的すぎると痛感することも多々ありました。
 今回、本格ミステリ大賞をいただいたことで、目指した道は誤っていなかったんだなと、喜びと同時にほっとしているところです。
本当にありがとうございました。

  霜月蒼
 異種格闘技戦。『アガサ・クリスティー完全攻略』をそう形容した感想を見たことがあります。確かにそのとおりです。私はノワールに代表される現代クライム・フィクションについて主に文章を書いてきましたし、クリスティー全作レビューに挑むにあたって武器になるのは、素人の蛮勇だけだと思っていたのです。
 とはいえ、尖鋭的な批評が数多く書かれている本格ミステリの分野に素人が切り込んでいくわけですから、不安は大きなものでした。作品に相対する都度、自分のなかのミステリ観を総動員して、ガチの勝負をしていったつもりです。
 その結果として生まれた本書を、本格ミステリ大賞というこれ以上ないかたちで認めていただけたことは、望外の光栄です。これを機に、『カーテン』や『終りなき夜に生れつく』や『ポケットにライ麦を』といった作品を新たな眼で楽しんでいただけたなら、素人の蛮勇は報われたのだ、と、私は胸をなでおろすことができそうです。ありがとうございました。